2018年9月24日(月)

本塁打で稼ぐ 勝ち組VCに見る「ベーブ・ルース効果」

CBインサイツ
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コラム(テクノロジー)
(3/3ページ)
2018/4/23 2:00
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 きっかけは、ラージ・シン氏が96年にJava専門の半導体という事業構想をKPCBに持ち込んだことだった。シン氏の前の会社に出資していたコースラ氏は、この構想に「気乗りしなかった」。その一方で、シン氏に売り込みたい別の構想があった。

 シン氏は「コースラ氏からはJavaでは稼げないと言われ、(光学)機器について話した」と振り返った。

 コースラ氏は、インターネットのトラフィック急増に伴い、大量の音声とデータを処理できる機器の市場がつくられるとみていた。

 コースラ氏はベンチャー投資家としての経験やKPCBに出入りする様々な企業による情報から、通信ネットワークが変化しつつあることを見抜いた。もっと安価で柔軟で、需要の増加に対応できる優れた接続性の解決策を提供できる商機があった。

 セレントのテクノロジーは、長距離通信回線と地元の電話・データ網との接続を促した。これにより、電話会社はデータをより速く簡単に送れるようになった。

インターネットのホスト数

インターネットのホスト数

 KPCBの98年の投資を機に光テクノロジーバブルが幕を開け、セレントの評価額は急上昇し、投資資金が流入した。シン氏とコースラ氏は同社の残りの事業から手を引き、その後2年以内に、シスコは同社を69億ドルで買収した。

 あるアナリストは「誰もがKPCBのセレントへの800万ドルの投資とリターンに注目していた。レジの音が『チーン』と鳴るのを聞かずにはいられなかった」と振り返った。

 (グルーポンの)レフコフスキー氏と(セレントの)KPCBがこれほどの成功を収めた一因は、投資先企業の経営を直接担っていたからだ。これにより、上昇局面で資金を投じることができた。

 (5)スナップ

 スナップは17年3月、評価額250億ドルで上場した。ソーシャルメディア・対話アプリ運営企業のエグジットとしては、99年以降で2番目に高い評価額だった。

 ベンチマーク・キャピタル・パートナーズが当時保有していた持ち株は32億ドルになった。約800万ドルの投資が20億ドル相当に膨らんだ米Lightspeed Venture Partners(ライトスピード・ベンチャー・パートナーズ)にとっても、最も生産性の高い案件になった。

 ライトスピードは12年5月、シードラウンド(調達額48万ドル)に参加し、スナップに初めて投資した。その9カ月後、ベンチマークはスナップのシリーズAで唯一の投資家として1350万ドルを出資した。ベンチマークの投資を主導したのは同社のパートナー、マット・コーラー氏とミッチ・ラスキー氏で、ラスキー氏はスナップの創業者エバン・スピーゲル氏のメンター(助言役)になった。

 ラスキー氏がこの関係を構築できたのは、スピーゲル氏とライトスピードが対立したことが一因だった。これは初期段階のスタートアップ、野心的な創業者、経験豊富なVCという内圧の高い世界では珍しいことではない。

 その後、フェイスブックをほうふつとさせるスナップのシリーズB(調達額6000万ドル)には、米General Catalyst(ゼネラル・カタリスト)、米SV Angel(SVエンジェル)、中国・騰訊控股(テンセント)、米Institutional Venture Partners(インスティテューショナル・ベンチャー・パートナーズ、IVP)そしてSF Growth Fundなどが参加した。どれもベンチマークやライトスピードほどの高リターンを得ていない。

 ベンチマークがスナップチャットへの投資で成功したカギは、スナップチャットという企業の能力を見抜いたからだった。他のみんながアプリの流行に目を向けるなか、ベンチマークは企業に着目した。

 13年の時点では、スナップチャットは裸の写真を送り合う大学生向けのアプリにすぎないとみられていた。米誌「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」が同年初めに同社の特集記事を掲載した際には、数秒で消えるモザイク写真のGIF「カバー」も掲載された。

 世間とメディアはスナップチャットの将来性を過小評価していたが、ラスキー氏とベンチマークは非常に興味深い状況を目の当たりにしていた。どんなソーシャルメディアを使っているかと誰かに尋ねると、フェイスブックやインスタグラム、ツイッターと同様に、スナップチャットの名前が挙がるようになっていた。

 スナップチャットとその創業者についてさらに学ぶと、ベンチマークはこの「セクスティング」アプリの将来性を確信するようになった。

 ラスキー氏は後に自身のブログでこう述べている。「ベンチマークは世界を変えようとする起業家を求めている。エバンとボビーは間違いなくそうした野心の持ち主だ。スナップチャットは世界で最も重要なモバイル企業の一つになると確信している。スナップチャットの当初の勢い――1日6000万枚の『スナップ』がシェアされ、これまでに50億枚以上の写真がやり取りされている――がこれを裏付けている」

 さらに、「スナップチャットの道は、ベンチマークが初期段階で支援する幸運に恵まれたもう一つのモバイルアプリ『インスタグラム』をほうふつとさせる」とも述べた。

 一方、米Upfront Ventures(アップフロント・ベンチャーズ)のマーク・サスター氏などは、反道徳的行為との結びつきがネックになった。

 サスター氏は後に自身のブログでこう述懐している。「『タイガーテキスト』というプロジェクトを(おそらく6カ月前に)目にしたばかりだった。これは『期待外れの対話アプリ』だった。タイガー・ウッズが送ったメッセージを愛人全員が保存していたことが、浮気の証拠になったというのが社名の由来だった。スナップチャットについて最初に議論したとき、この話が頭によみがえった」

 サスター氏は浮気している夫が主な利用者になるアプリなど、支援したいと思わなかった。これは想像力の欠如で、過ちだったと認めている。

ソーシャルメディアと対話アプリのエグジット

ソーシャルメディアと対話アプリのエグジット

 米コンサルティング会社Altimeter Group(アルティメーター・グループ)のスーザン・エトリンガー氏は最近、米紙ニューヨーク・タイムズの取材に対し「ポルノは多くの新たなインターネットサービスの第1の用途と見られており、その通りの場合もある」と語った。とはいえ、これが唯一の主な用途という意味ではない。

 スナップチャットの最初の成功の一つは、平日の午前8時~午後3時に、カリフォルニア州オレンジ郡のある小さな高校でアプリの利用が急増していることにスピーゲル氏が気付いたときに訪れた。スピーゲル氏の母親が、この高校に通うおいにアプリについて話したのだった。そこからアプリの利用が広がり、高校生たちは「クラスでデジタル版のメモを回す」(スピーゲル氏)感覚でスナップチャットを使った。

 これこそがラスキー氏とベンチマークが投資したアプリだった。セクスティング用ではなく、初期の段階でもバイラリティ(口コミなどで人気が拡散すること)とエンゲージメント(愛着度)水準が明らかに優れているアプリだった。

 スナップでのベンチマークや、フェイスブックでのアクセルの例が示すように、早い段階で多額の資金を提供し、投資を積極的に成功に導くのは素晴らしい戦略だ。

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