規模拡大に活路 堅実な武田、生き残りへ大胆な巨額投資
武田薬品工業がアイルランドの製薬大手シャイアーに対する買収交渉に入った。時価総額で自社を1兆円も上回る企業の買収を狙うのは、潤沢な資金力を背景にM&A(合併・買収)で規模を拡大し、研究開発力を高める米ファイザーなど世界大手との差が広がることへの危機感だ。
シャイアーは売上高でみれば武田と同規模の約1兆6千億円。業界の売上高順位は20位前後だが、希少疾患や難病治療薬の開発力にたけており、ライバル不在の領域で高収益をたたき出す。
仮に買収に成功すれば、希少疾患領域で圧倒的な存在感を持てるだけでなく、バイオ医薬品の開発技術も手に入る。売上高も3兆円を超え、9位の米ギリアド・サイエンシズと肩を並べる。
「武田の強みは消化器、中枢神経、そしてがんに対する治療薬だ」。武田のクリストフ・ウェバー社長はこう強調する。
潰瘍性大腸炎や血液がんの治療薬などは国内外で大きく伸びている。武田は試薬子会社の譲渡、特許切れ医薬品の移管を進め、非中核事業を切り離し新薬開発に注力している。
並行して2008年に米バイオ製薬ミレニアムを9千億円で、11年にはスイス製薬のナイコメッドを1兆1千億円で買収するなど大型M&Aに積極的に取り組んできた。だが、必ずしも成果を生んだとは言い切れない。
有力な新薬を会社ごと買い上げる手法で成長したファイザー、C型肝炎を完治させる画期的な治療薬でトップ10に躍り出たギリアドなどと比べると成長スピードは見劣りする。
日本では売上高首位の武田も、世界を見渡すとその名前は上位10位にすら入らない。17年末時点で世界の製薬会社の売上高はトップはスイスのロシュで543億ドル(約6兆円)。武田の順位は世界で17位程度だ。
武田の主力医薬品は最大でも1千億円程度。市場規模は4兆円ともいわれる、がん免疫薬「オプジーボ」のような強力な製品は持っていない。がん免疫薬は米メルクや英アストラゼネカも参入し、武田は完全に出遅れた。
シャイアーの買収で、開きっぱなしだった世界大手との差を一気に詰め、同時に開発力、有力な新薬を入手する「一石三鳥」を狙うことができる。正式な買収提案をするかどうかの回答期限はロンドン時間の4月25日。すでにシャイアーは水面下の交渉で武田の買収価格提案を3度も拒否した。武田の次の一手が注目される。
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