米英、ロシアのサイバー攻撃に警鐘 機密情報・知財にリスク
【ワシントン=中村亮】米英両政府は16日、ロシアがIT(情報技術)インフラを対象に大規模なサイバー攻撃を計画しているとして企業や個人に警戒を呼びかける共同声明を発表した。政府や企業の機密情報や知的財産が盗まれ、エネルギー供給の停止につながるリスクもあるという。シリア情勢をめぐる米英とロシアの対立に拍車がかかる可能性もある。
米国土安全保障省と米連邦捜査局(FBI)、英国家サイバーセキュリティーセンターが16日、共同で警戒を呼びかけた。複数の国が非難する国を特定したうえで、大規模な警戒を要請するのは異例という。FBIは「ロシアはスパイ活動や知的財産の盗難を実施し、感染したネットワークにアクセスを続けて将来の大規模サイバー攻撃に備えている」と批判した。
声明では家庭や企業でインターネットに接続する際に使う通信機器(ルーター)が標的になっていると指摘。パソコンやスマートフォンでやり取りする情報が通信機器を介すため「理想的な攻撃対象になっている」という。米英は2015年からサイバー攻撃の被害を把握し調査を進めてきた。
ロシアのハッカー集団はルーターへのサイバー攻撃を通じて個人の認証情報を盗んだり、利用者になりすまして情報を抜き出したりするという。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の普及でサイバー攻撃のリスクは高まっており、電力やエネルギー業界などの重要インフラが攻撃されれば社会生活への影響は大きい。
オーストラリア政府も17日、17年にロシア政府が関与したサイバー攻撃を受けたとして警告を出し、米英の共同声明に足並みをそろえた。ペイン国防相は「約400の豪企業が標的となったが、深刻な情報流出はなかった」とした。
米ロはサイバー空間をめぐって対立を繰り返してきた。16年の米大統領選ではロシアがトランプ陣営に有利になるよう世論工作したとされる。米はウクライナを中心に世界中で被害が広がった17年6月の身代金要求型ウイルス(ランサムウエア)の攻撃はロシアが仕掛けたと断定した。
欧米はロシアのサイバー攻撃を「民主主義に対する攻撃」とみて、18年の米議会中間選挙などへの介入を警戒する。ロイター通信によると、駐英ロシア大使館は16日、米英の主張に対し「ロシアに対して無謀かつ挑発的な根拠のない政策の典型例だ」と批判する声明を出した。シリアのアサド政権への空爆で米英とロシアの対立は激化し、歩み寄りの気配は見えない。