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UACJの乱、空しき46日

アルミニウム国内最大手のUACJを巡る首脳人事が決着した。代表権の維持を狙った山内重徳会長(69)と岡田満社長(61)に対し、筆頭株主の古河電気工業などが繰り返し再考を迫り、山内氏、岡田氏が相談役に退くことで落ち着いた。1カ月半にわたる勝者なきお家騒動をドキュメントで追う。

予想外の案提示

13日、UACJの山内会長は東京都内で緊急記者会見に臨んだ。「人と人、会社と会社の理解は思った以上に難しい」「山内、岡田の保身の気持ちがないことだけははっきり言っておきたい」。自分が身をひくという結果に吹っ切れたのか、口調はさばさばしていた。

時計の針を水面下の攻防が始まった2月13日に戻す。この日、山内氏は岡田社長を従え、東京・丸の内にある古河電工本社に向かった。したためていたのは一通の書類。山内会長が留任、岡田社長が副会長に就任し、社長に昇格する石原美幸取締役(60)も含め3人に代表権を持たせる6月下旬からの首脳人事案だった。

会話の途中に突然書類を渡された古河電工の小林敬一社長(58)は、その内容に慌てる。「ちょっと待ってください。すぐに承服はできません」。面談の名目は第3四半期決算の内容説明で、この日に人事案が提示されるのは小林氏にとって予想外だった。代表権3人は、誰が経営をしているのかを曖昧にする。古河電工が推薦する監査役の名前が消えていたことにも不満を覚えた。

日がたつにつれ、古河電工側の不満は不信へと変わっていく。UACJ側には何度も再考を求めたが、反応はない。2月26日朝、今度は古河電工の小林氏と柴田光義会長が、UACJ本社に乗り込み、山内氏と岡田氏との最終交渉に臨んだ。「繰り返しますが、代表権3人は認められません」。これに対し、山内氏は「わかってほしい」と繰り返すだけ。結局、物別れに終わった。

古河親子、積年の不信

UACJ側は、なぜ強硬に代表権3人体制にこだわったのか。背景には関係者だけに通じる2つの力学がある。

UACJは2013年、古河電工の連結子会社でアルミ圧延国内最大手の古河スカイと住友金属工業(現新日鉄住金)が筆頭株主だった同2位の住友軽金属工業が合併して誕生した。合併の立役者が住軽金社長だった山内氏と、古河スカイ社長だった岡田氏。それぞれ新会社の会長、社長に就任し、二頭体制が発足以来続いている。

人事案を撤回し、相談役に退くことを発表するUACJの山内会長(左)と岡田社長(13日午後、東京都中央区)

合併前は売上高で上回る古河スカイ側が主導権を握るとの見方が多かった。しかし、多額の有利子負債を抱え、単独経営が危ぶまれていた住軽金は技術力や人材の厚さがあり「何枚も上手だった」(業界関係者)。

UACJ内で住軽金の色が徐々に強くなっていたが、そうはいっても社内融和が経営上の優先事項だ。新社長候補の石原氏は住軽金の出身。新体制が軌道に乗るまで、実力者である山内氏のみが代表権を持ち続けるのは難しく、岡田氏と同じ立場で経営にあたる必要があった。

住軽金と古河電工のバランスが第1の力学だとすると、第2は親子間の力学だ。親会社、子会社の関係にあった古河電工と古河スカイは、一枚岩というわけではない。

古河電工は、業績が低迷していたアルミ部門を03年に本体から分離し古河スカイとした。古河電工からすると「子の自立」を願った形だが、古河スカイ側からみれば「親に見捨てられた」と感じる。「古河スカイ出身者の反発心は、住軽金よりも古河電工へ向かいがち」(アルミ大手幹部)との指摘もある。

できるだけ古河電工にはUACJの経営に口を出して欲しくない。古河電工の影響力を最小限にとどめるためには、実力者の山内氏、岡田氏の両氏が盾とならなければならない――。こうした入り組んだ力関係を推し量った上での結論が代表権3人体制だった。

財閥当主の訃報、流れ変える

最終交渉が決裂した翌日の2月27日、UACJは首脳人事案の発表を強行する。古河電工は同日、「山内、岡田両氏が代表権を持つことはガバナンス上、大きな問題だ」とするプレスリリースを公表し、両社の対立が表面化した。

株主総会での取締役解任は出席した株主の過半数の賛成で承認される。大株主の新日鉄住金も同社出身の監査役を人事案で外されたことで、古河電工側に同調した。

内部対立は外野には好機をもたらす。旧村上ファンド出身者が設立した投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントがUACJの大株主として浮上した。

早期決着の流れは意外なことから始まった。株主総会での委任状争奪戦の可能性も高まった3月12日、古河財閥の5代目当主、古河潤之助氏の訃報が届いた。1995年に古河電工の社長に就任、古河グループにとって今でも象徴的な存在だ。

社長としては2001年に米ルーセント・テクノロジーズの光ファイバー部門を約2800億円で買収。その後、ITバブルの崩壊で多額の損失を出し、アルミ事業の分離も決断している。古河スカイ側には潤之助氏への複雑な感情も残るが「当主の死により、両社が和解モードに向かっていった」(業界関係者)

お別れの会が開かれるのは4月25日。「人事案で争ったままでは、潤之助さんに顔向けできない」。株主総会での委任状争奪戦を避け、早期の「和解」が古河電工、UACJ両社の共通認識になっていった。

UACJが13日公表した新たな人事案からは、対立を緩和しようと試みる新たな力学が見て取れる。古河電気工業側の監査役を選ばず、大株主とは無関係の社外取締役が新たに追加された。古河電工は山内氏、岡田氏の2人の退任と引き換えに、「独立性を主張するUACJにも一定程度譲歩した」(アルミ大手幹部)ようだ。

社外取締役が増えたことについて岡田氏は「ガバナンス強化につながる」と歓迎。古河電工も「全面的に支持する」とのコメントを発表した。

もっとも今回のお家騒動で、新たな外部バランスを考える必要が出てきた。「物言う株主」のエフィッシモはUACJ株を10%近くまで買い増しており、古河電工に次ぐ2位株主となっている。

「どんな要求をしてくるか全くわからない」(関係者)。見えない相手の出方によってはUACJとしても、古河電工としても新たな対応策を迫られる。

取引先や金融機関などがガバナンスを疑問視するといった外部の目の変化も気になる。何より、表だって派手に衝突してしまったUACJと古河電工の感情的な対立は解消に向かうのだろうか。勝者なき決着の副作用はあまりにも大きい。

(井上みなみ、大西智也)

[日経産業新聞 2018年4月16日付]

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