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ハリルホジッチ解任 日本はコロンビアと戦えるか

スポーツコメンテーター フローラン・ダバディ

6月19日のコロンビア戦は今年の日本のスポーツシーンのハイライトになるはずだ。そのワールドカップ(W杯)が2カ月後に迫ったところで、サッカー日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督が職を解かれた。

サッカーが好きかどうかにかかわらず、W杯は経済的にも政治的にも五輪と並ぶ一大イベントだ。国際社会での存在感を高めるうえでもまたとない機会となる。

動じぬ精神力持つ日本人選手は…

ハリルホジッチ氏の解任に至る真相はまだよくわからない

ハリルホジッチ前監督に対し、日本社会で求められる"政治的"な振る舞いや、スポンサーやメディアといった経済的な利害関係者への配慮が欠けていたという批判があるのは容易に想像がつく。僕のかつてのボスだったフィリップ・トルシエ監督も同じだったから、よくわかる。確かに彼はそれほど愛想がいいわけではないし、リップサービスをするタイプでもない。

解任に至る真相はまだよくわからない。メディアやインターネット上では様々な情報が飛び交っているけれど、前監督自身の公式な発言がない現時点では、臆測や一方の主張に基づいたものにならざるを得ない。

W杯ではもちろん日本に活躍してほしい。けれども、実際その場に身を置いたことがある僕は、その難しさもよく知っている。独特の緊張感に加え、芝の状態や気候、ピッチ外の環境も含め、未知に囲まれての船出となる。そんな状況でも万全の準備をし、動じない精神力を持っている日本人選手は本田圭佑ぐらいだろう。

こんな状況の指揮官として、ハリルホジッチ氏は打ってつけの人材だと僕は考えていた。現役時代から準備に対する意識などにおいて、彼はプロ中のプロだった。第六感や危険への嗅覚という点においても人並み外れた資質を備えている。ボスニア紛争のような過酷な環境下で生きてきたことも、そうした感性が研ぎ澄まされる一因になったのかもしれない。

トルシエ氏と中田英寿氏は決して親しい間柄ではなかったが、高いプロ意識をもってともに戦った。ハリルホジッチ氏と本田も同じような関係を築ければ、チームにとって大きな力になれたと思うのだが……。

周知の通り、2014年のW杯でも日本はコロンビアと1次リーグで最後に対戦し、惨敗を喫している。悩ましいことに今年のコロンビアのチーム力は4年前に勝るとも劣らない。選手の年齢は上がったが、アルゼンチン人の戦略家、ペケルマン監督の下で経験と自信を積み重ねてきた。個々の選手の技量を見ても、ファルカオ、ロドリゲスらが本田や香川真司らを上回っていることに異論はないだろう。

「ストリートファイター」の集まり

肉体面や精神面のたくましさという点でも日本は旗色が悪い。ハリルホジッチ氏が繰り返し強調していた「デュエル(決闘)」の視点に立てば、コロンビアはまさに「ストリートファイター」の集まりだ。日本がこれまで、メキシコやパラグアイなど中南米のチームに苦しめられてきたのは偶然ではない。誇張ではなく、彼らのサッカーはラテンアメリカ特有の獣のような苛烈さを反映している。バルガス・リョサやカルロス・フエンテスといった大作家が描いてきた血と涙、情熱と狂気を地でいく世界。マヤ文明にインカ帝国、植民地化と独立戦争を経て独裁国家に至る血なまぐさい歴史からも、煮えたぎるようなラテンアメリカ気質を感じることができるだろう。

1990年代以降、コロンビアの治安は関係者の多大な努力によって改善し、現在は南米指折りの美しい国として観光客にも人気を博している。経済も好調だ。しかし伝統的な地域性や歴史を踏まえれば、コロンビアのスポーツ界に一筋縄ではいかない闇があっても不思議はない。

全国紙「エル・コロンビアノ」の最近の報道によると、同国のスポーツ界にあって、自転車とサッカーはとりわけ深刻なドーピング問題を抱えているという。最近の国内の自転車レースでは8人の選手がステロイド陽性のため出場停止となった。

2年前には「ドーピング王」の異名をもつアルベルト・ベルトランという医師が逮捕されたことも忘れてはいけない。「麻薬王」の悪名をとどろかせたパブロ・エスコバルはコロンビア人だが、ベルトランはスポーツ界のエスコバルともいえる存在だった。彼の顧客リストは自転車から乗馬まで多岐にわたっていた。エル・コロンビアノ紙は、同国ではこうした悪徳医師が薬物を売ることが禁じられていないとも伝えている。米ニューヨーク・タイムズによると、世界反ドーピング機関(WADA)は昨年夏、コロンビアで唯一の認定分析機関を半年間の資格停止にしたという。

サッカーにおける薬物の効果を過小評価してはいけない。持久力を高めるエリスロポエチン(EPO)を使えば選手は大きな恩恵を受けられるし、14年ソチ冬季五輪でロシア選手たちが摂取していた種々の薬物も同様だ。

もちろん、いまの代表チームが薬物と関係しているわけではないが、選手のすぐ近くでこうした違法行為が横行している環境があり、選手たちはそんな中でサッカーと関わってきたのだ。薬物の影をちらつかせて日本の選手を脅かそうというのが今回の僕の目的ではない。体力的な優劣のみでは勝敗が決まらないのがサッカーの醍醐味であり、そうでなければアフリカ勢はもっと勝っているはずだ。厳格な規律やスピード、巧みな試合運びで屈強な南アフリカに一泡吹かせたラグビー日本代表の例もある。

日本は心身ともにたくましくあれ

とはいえコロンビアと渡り合うには、ハリルホジッチ氏が望んだように、日本は心身ともにたくましくあらねばならないのは間違いないだろう。さらには選手だけでなく、チームを取り巻く裏方やメディア、ファンをも巻き込んだ真の結束が不可欠だ。日本サッカー協会が日本人監督を後任に据えたのは、絆を生むにはその方が効果的だと考えたからだろうか? もちろんこれは仮定にすぎないし、そうだとしても僕は賛同できないのだが。

6月19日のW杯1次リーグ初戦。コロンビアに勝てないまでも引き分けに持ち込むというのは、日本にとって大きな挑戦となる。ハリルホジッチ氏のようなプロ中のプロとたもとをわかった日本がどう戦うのか。答えは2カ月後に明らかになる。

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