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独特な重圧も感動も チーム戦ならではの醍醐味

公益財団法人日本ゴルフ協会専務理事 山中博史

みなさんは誰かのためにプレーをしたことはありますか――。いきなり生意気な問いかけで申し訳ありません。ゴルフは基本的に個人競技ですので、アマチュアゴルファーはなかなか経験するチャンスがないと思います。

私自身は以前、大学ゴルフ部に所属していたので、団体戦や倶楽部(くらぶ)対抗に出場した経験はあるのですが、あの独特なプレッシャーと緊張感は今でもよく覚えています。

実は3月にカタールのドーハで、アマチュアのアジア太平洋選抜と欧州選抜の対抗戦「ボナラックトロフィー」が開催され、アジア太平洋選抜チームの副主将として参加してきました。この大会は2年に一度開催される大会で、前回はポルトガルで開催され欧州チームの圧勝で終わりました。前回も副主将を仰せつかったのですが、勝手が全くわからずに役割も果たせないままで、悔しいというより情けない気持ちでした。

反省もとに入念に打ち合わせ

今回は主将を務めたオーストラリアのマット・カトラー氏と打ち合わせを重ね、前回の反省をもとにいろいろな作戦を考えました。選手選考(1カ国につき最大2人までというルールがあります)についてもそうですが、どうすれば選手たちが普段通りプレーできるのか、マッチプレーなので常に相手が目の前にいる状況でどれだけ強い気持ちを持てるか、特にフォアサム競技(1つの球を交互に打つ競技方法)ではこれまで欧州チームに全く歯が立たなかったのですがその原因が何なのか。カトラー氏との話し合いで出した結論は下記の通りでした。

まず、チームに日本ゴルフ協会(JGA)ナショナルチームのヘッドコーチを務めているギャレス・ジョーンズ氏を帯同させる。ジョーンズ氏はオーストラリア人でもともとオーストラリアのナショナルコーチをしていました。日本の選手だけではなく、オーストラリアの選手、そして数々の国際大会にも帯同していっているので、アジア諸国の選手のことをよく把握しています。ただし、彼はプロゴルファーなので大会のルールにより、競技中に選手にアドバイスすることはできません。とはいっても、結果的に競技の前や終わった後のアドバイスは選手たちにとってとても心強いものになりました。

次に組み合わせについてです。今までは言葉の問題や、選手同士に安心感を与えるという意味で、同じ国の選手をダブルスでペアで組ませていました。そこをあえて今回、変えてみることにしました。たとえ言葉が百パーセント通じていなくても、プレースタイルや個々の性格を考えたうえで組み合わせを決めました。2人の日本人選手もダブルスではニュージーランド、シンガポール、フィリピンの選手とチームを組んだのです。

そしてチームとしての決め事をつくりました。ミスをしても絶対にパートナーに謝らないことです。謝ればどんどん萎縮しますし、言われたパートナーも遠慮が生まれます。ついつい口癖で「ゴメン」と言う選手はいましたが、ミーティングのたびに選手たちには徹底して「謝るな」と伝えました。

最後に、競技方法の順番を変えてもらいました。最初の2日間は1日36ホールを回ります(マッチプレーなので早く終わるケースもありますが)。前回までは午前中がフォアサムで、午後がフォアボール(ベストボール選択)形式でした。過去のパターンでみると、我々はフォアサム競技にめっぽう弱いのです。そこで今回は我々がホスト側なので午前中にフォアボール、午後にフォアサムという順番を提案したのです。

さて、実際に試合が始まり、どうなったかといいますと――。

初日の午前中に大量のリードを奪うことができました。また、ジョーンズコーチの役割もどんぴしゃで、選手たちに大きな安心感と信頼を与えてくれました。そして何よりも相手の欧州チームを大いに慌てさせることができました。

貫いた「ノーソーリー」精神

2日目に入ると、欧州チームの巻き返しが始まりました。明らかに目の色が違ってきたのがわかりました。それでもアジア太平洋チームは必死に食い下がり、最後まであきらめないプレーで謝らない、いわゆる「ノーソーリー」精神で頑張りました。

2日目を終えて、わずかに欧州チームのリードでした。3日目はシングルマッチです。ここで重要なのは、プレー順です。この大会はそれぞれがチーム内でプレーする順番を決めてそれを照らし合わせる方法なので、相手の出方は全くわかりません。カトラー主将、ジョーンズコーチと相談し、比較的に調子のいい選手、気持ちの強い選手を前半の組に持っていき、勢いをつけようという作戦をとりました。

各マッチとも接戦で、一進一退の状態が続きました。期待通りの結果を出してくれた選手、勝ちを期待していた選手の負け、逆に計算していなかった選手の勝ちと、本当に手に汗握る展開となりました。そして最後の1組が残ったとき、我々がわずかにリードしている状況となったのです。最後に残った組は17番を終わって1アップ、このまま勝てば我々の優勝、もし最終ホールで取られてオールスクエアで終わると、チームポイントも引き分けとなり、大会規程で前回優勝チームが勝ちという展開になりました。

さて、その組が18番のティーイングラウンドに上がったとき、この状況を選手に伝えるべきかどうかで悩みました。我々の出した結論は「伝えない」というものでした。この選手の性格を考えたとき、伝えないほうがよいだろうということになったのです。

最終ホールはパー5です。両選手とも3オンで我々は約5メートル、相手は約2メートルのバーディーチャンスです。我々の選手はいいパットをしましたが僅かに外れてパー、相手のパットを待つときはチーム全員が祈る気持ちでした(もちろん欧州チームも同じです)。そして、相手のパットが外れたとき、歓喜の瞬間が訪れたのです。

実はその選手とは、2017年の日本アマに優勝した大沢和也選手だったのです。大沢選手は現地に入ってから調子が上がらず、2日間終わって0ポイントだったのです。何も知らされていない大沢選手はなぜみんなが大騒ぎしているのかわからず、キョトンとしていました。ですが、状況を知って「もしわかっていたらとてもじゃないけれど、冷静にプレーできなかった」と言っていました。今回参加したもう一人の日本人選手は、昨年の日本オープンで最後まで優勝争いをした金谷拓実選手でした。もし、彼が大沢選手の立場だったら我々は状況を伝えていたかもしれません。

チームのために戦い勝った経験

勝負は時の運です。もちろん今回優勝できたことは最高にうれしいのですが、それよりも感動したのはチームが一つになって頑張れたこと、若い選手たちがチームのために戦う、そして勝利するという経験を積めたこと、仲間を信じて祈ったことです。きっと彼らは全員がプロゴルファーになるでしょう。でも優勝が決まった後にみんなで抱き合ったこの喜びと感動を忘れないでほしいと思います。そして今回、日本から参加し、活躍した大沢選手と金谷選手のことを誇りに思います。

ちなみに次回は20年にスペインで開催されます。欧州チームはホストになり、きっとリベンジしようと燃えているでしょう。次回はどんな展開になるか今から楽しみです。

読者のみなさんもたまにはチーム戦を計画して経験してみてください。きっと新たなゴルフの楽しさ、魅力、感動が味わえると思いますよ。

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