2018年7月23日(月)

がん先端療法の衝撃
(WAVE)成田宏紀氏

コラム(ビジネス)
スタートアップ
2018/4/12 21:43
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 バイオテクノロジーは、がんを着実に過去の病気にしつつある。忙しい読者のみなさんにも、是非とも「バイオ通」になっていただくべく、最先端バイオテクノロジーを紹介していきたいと思う。

2000年エヌ・アイ・エフベンチャーズ(現・大和企業投資)に入社し、11年投資第一部副部長兼VC投資第四課長。14年5月、DCIパートナーズ社長就任。

2000年エヌ・アイ・エフベンチャーズ(現・大和企業投資)に入社し、11年投資第一部副部長兼VC投資第四課長。14年5月、DCIパートナーズ社長就任。

 「あなたのがんは治ります。お代は5000万円です」こんな時代が現実味を帯びてきた。免疫細胞療法である。

 免疫とは、生物に備わっている防衛システムのことであり、いわば体内を巡回している防衛隊である。我々が生活しているこの世界は菌やウイルス等の外敵に満ちており、免疫がなければ、ヒトなど彼らの餌食でしかない。

 加えて、免疫は内なる敵との戦いにも明け暮れている。がん細胞である。正常な細胞が暴走した状態ががん細胞なのだが、がん細胞は1日に数千個も誕生していると言われている。昼夜を問わず、免疫がこれらを摘発しているおかげで、我々は辛うじて明日を迎えているのである。

 免疫は高度なセンサーと火力、通信能力を備えた数種の細胞が役割分担しており、かなり高度な作戦を展開している。では、なぜヒトはがんになるのか。

 実はがんも負けていない。がんは免疫からただ逃げるだけでなく、免疫をかく乱し士気を下げることができる。免疫のセンサーに捕捉されないステルス機能を備えたものまでいる。免疫が戦いに敗れた時、ヒトはがんになる。

 さて、ここまでは体内で起きている自然現象である。防衛隊には「科学者の秘密兵器」がつきものだが、彼らが開発した技術は免疫のサイボーグ化であった。がんのステルス機能を破る改良型センサーを、免疫細胞に人工的に組み込むCAR―T療法(キメラ抗原受容体T細胞療法)がその代表例だ。

 古くからある免疫細胞療法の進化版なのだが、初めてこの技術を聞いた時、そこまでやるかと個人的には衝撃を受けた。

 しかし、本当に衝撃的だったのは、その効果だった。この療法は、既存療法が効かない患者さんの70~80%に有効性を示したのだ。

 もっともCAR―T療法はまだ開発途上であり、比較的治療しやすい血液のがんにしか効いていない。小さながん細胞が散在している血液がんは各個撃破しやすいのだが、大腸がん等、塊を形成する固形がんに対しては、戦力を集中する必要がある。

 それでは、多くの患者さんを苦しめている固形がんには打つ手がないのか。山口大学発ベンチャーのノイルイミューン・バイオテック社に勝算がある。固形がんに免疫細胞を誘導するCAR―T技術を持ち、体内の正常な免疫細胞まで呼び寄せる。ヒトでの開発はこれからだが、既に武田薬品工業と共同研究を始めるなど、今後の研究から目が離せない。

 CAR―Tがもう一つ私に衝撃を与えたものがある。それは冒頭で触れた「1回約5000万円」という治療費だ。ブラックジャックに執刀してもらうか迷う価格だが、現時点ではコストがかかる治療法であるのは間違いない。

 しかしながら、まだまだ開発途上の技術である。科学者の努力は、近い将来、遍く人々に治療機会をもたらし、がんを過去の病気にすると信じている。

[日経産業新聞 2018年4月12日付]

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