会津城下 ほころぶIT桜

2018/4/10 6:30
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福島県の会津若松市でスタートアップ企業が芽吹いている。ブロックチェーン、仮想現実(VR)など先端領域で世界を相手にして戦う企業が育つ。産学官がつながり彼らを支える生態系も広がる。大企業があり、企業城下町として隆盛を誇ったのが、かつての地方都市の理想像。会津若松ではスタートアップを起点にした21世紀型の企業城下町づくりが実を結ぼうとしている。

■会津大発 スタートアップ29社

「学んだことでお金を稼いでみたい」。VRコンテンツの制作会社AnostVRの秋山真範代表取締役はこう話す。会津大学の4年生で、2017年12月に起業した。「学内に技術オタクが多く、新しい技術を楽に吸収できる」。福島県内の企業などからの委託業務をこなしつつ、飛躍に向けたアイデアを温める。

会津大学発のスタートアップは29社あり、公立大学でトップだ。1学年は約240人で、コンピューターサイエンスに特化しており、約100人の研究者を抱える。外国人の教員が4割を占め、厳しい評価で学生を鍛え上げている。大学周辺にあるスタートアップは学生の格好のアルバイト先で、ビジネスの最前線を学ぶ場となっている。「起業は特別なことでない」(秋山氏)。

あらゆるモノがネットにつながる「IoT」関連のスタートアップ、デザイニウムは、雪が積もった中でも消火栓の位置を示すアプリを開発した。地元消防団から依頼を受けたものだ。

SNS(交流サイト)に「いいね」などアクションがあると通信可能なデータ量が増えるSIMカードは、訪日客の誘致に悩むスキー場からアイデアを求められつくった。前田諭志社長は「地方にいればリアルな課題が見え真剣に向き合える」と会津を創業の地に選んだ理由を説明する。

■市民ビッグデータ公開

なぜ、この地にスタートアップが育つのか。会津大開校から四半世紀がすぎ、ICT(情報通信技術)の優秀な人材を供給できるようになったことが大きな理由だが、それだけではない。会津若松市が掲げる「会津データバレー構想」が強力な推進力となっている。

城下町の医療、防災、観光などの情報をビッグデータとして蓄積し、オープンに利用できるようにする。データを目当てに企業が集まり、スタートアップが生まれていく――。

オープンデータの担い手は市民だ。市民が家庭で使うエネルギー消費量、交通機関を使ったログ、医療や教育のデータ、インバウンドを含む観光データなど広範囲にわたる。こうしたデータをつなげれば、行政コストがかからないスマートシティも実現する。

データバレー構想の背景にあるのは、東日本大震災をきっかけとした産業空洞化への懸念だ。会津若松市の人口は12万人強と10年前から5%減った。生産年齢人口は約9%、主力産業である電子部品従事者は約56%もそれぞれ減った。「製造業に代わる産業を作らなければならない。ICTを核に地方創生モデルをつくりたい」(会津若松市の室井照平市長)

会津大の知と会津若松市の志がかみ合うことで、ビジネスの土壌が肥え、威勢のいいスタートアップが育つ。

■先端分野で勝負

IoTに力を入れるGClue(ジークルー)の佐々木陽社長は会津大卒。「誰もノウハウがない分野で勝負する」と鼻息が荒い。01年に会社を設立した当初は従来型携帯電話(ガラケー)の公式サイトを手がけていたが、スマートフォン(スマホ)アプリ開発、そしてIoTと時代の最先端分野で勝負し続ける。

現在顧客として抱えるのは通信会社、エネルギー、工作機械など誰もが知る大手企業。データを取得できる基板を提供しており、人工知能(AI)を使ったデータ解析までをこなす。

会津ラボはブロックチェーンを活用して電力管理システムのエナリスとは電力データを活用した高齢者の見守りサービスの実証実験を始めた。久田雅之社長は「会津大で学生時代を過ごし人脈がある上、福島県も会津若松市も協力的。町ぐるみでIT産業を活性化しようとしている」と起業の決め手を説明する。

ブロックチェーン技術を開発するソラミツ(東京・千代田)は、あえて会津若松市に拠点を構えた。カンボジア国立銀行、楽天証券、損保ジャパン日本興亜などと取引実績がある。東京の本社にも有能な外国人エンジニアを抱えたうえで、会津若松に中核部隊を置くのは、会津大生の技術力の高さを評価したからだ。アルバイトのスタッフを含めて約10人が働く。

五十嵐太清ブロックチェーンエンジニアは、会津大学の大学院に通いながら自社の技術を磨く。「日本は遅れていない。研究段階な部分があり、一発逆転のチャンスは十分にある。だからこそ開発スピードをあげる」。

こうしたスタートアップの動きを大手企業も魅力に感じる。NECは昨年、「会津イノベーションセンター」を設け、スマートシティ整備に参加している。日産自動車は電気自動車(EV)の次世代車関連で、会津大学の産学連携センターと共同プロジェクトを進めている。

かつて日本経済を支えたのは地方に散らばった企業城下町。大企業を中心したピラミッド構造に取引先が集まり、経済を潤し雇用を生んだ。グローバルな競争時代に入り、大企業の海外進出やリストラでその姿は様変わりした。会津若松はスタートアップがボトムアップする、新たな地方都市モデルをつくろうとしている。

(企業報道部 若杉朋子、映像報道部 森園泰寛)

[日経産業新聞 2018年4月10日付]

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