木づち1本 アルミ七変化 布施金属工業のたたき板金加工(もっと関西)
ここに技あり

2018/4/9 17:00
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カン、カン、カン――。メトロノームのように規則的に刻む金属音が小さな町工場の片隅で響く。職人が木づち1本でアルミ板を自由自在に変形させていく。布施金属工業はバイクのエンジンタンクから望遠鏡の筒まで、特注品に的を絞って顧客のイメージ通りの形を作り上げる。

寸法に合わせて切ったり、溶接したりしたアルミ板を作業台に置き、ひたすら木づちでたたき続ける。バケツのようなアルミ型は高電圧発生装置の内部で電気が漏れないようにするための部材だ。所定の位置にぴったりとはまるように口を内側に曲げていく。

重要なのが左手でアルミ型を回すスピードだ。一定のリズムと幅で回さないと、均一な形にならない。5ミリメートル単位の精度が求められる。

耳も大きな頼りになる。たたく面が木づちの芯に当たっているか、音を確かめながらたたいていく。しっかりたたけていれば乾いたカン、カンという音になるという。たたくごとにアルミ板が硬くなり音も高くなるため、作業の進捗を見極める上でも重要だ。たたき方の癖などに合わせて職人自身が削って作った50本ほどの木づちを使い分ける。

円筒のアルミ型を回しながら木づちでたたき、少しずつ曲げていく

円筒のアルミ型を回しながら木づちでたたき、少しずつ曲げていく

布施金属工業のたたき板金の職人は3人。アルミ板を手作業で精密加工できる技術は珍しく、全国から注文が来る。金属板は通常、プレス機に取り付けた金型で打ち抜いて加工する。ただ金型を1つ造るには十万、百万円単位の費用がかかり、少量生産には向かない。布施金属は1個から受注しており、機械では難しい複雑な加工を得意とする。

創業は1956年。現在は3代目の西堀広希さん(43)が専務として現場を率いる。もともとは下請け加工が大半だったが、2008年の金融危機以降、受注が減り存続も一時危ぶまれた。

潮目が変わったのが西堀さんが作った会社のホームページ。アルミ板をどんな形にも加工できることを紹介した。交流サイト(SNS)でも発信を始めたところ、依頼が増え始めた。最近ではファッションショー用の服を装飾するアルミ板の加工も受注する。

後継者の育成にも力を入れ始めた。再建途上の13年に社員の給料を削って若手社員を雇うことを決断。山岸亮太さん(36)をたたき板金の職人として育てている。「手首を固定するたたき方を意識するよう注意を受ける」という山岸さん。1人で完成させる製品も増え始めている。

布施金属の作業場は通りに開け放たれている。「近所の小学生がのぞき込んであこがれる職場にしたい」(西堀さん)。目指すのは米ニューヨークのブルックリン地区のようなスタイリッシュな職人集団だ。

大阪経済部 上田志晃

写真 山本博文

カメラマンひとこと 甲高い金属音を響かせながら木づちでアルミ型をたたく職人。作業の様子を撮影しようとカメラを構えるが、工場内には機械や工具が所狭しと置かれていてすっきりとしない。思い切って職人の足元にぐっと近づき、床すれすれの位置から見上げてみる。天井が背景になり、木づちを振る職人と丸く加工されたアルミ型が際立った。
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