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「家なき子」の相続節税厳しく 負担、数千万円増も

4月の税制改正で

自宅の土地の評価額は特例適用で8割減に

4月の税制改正を受け、土地の相続税額を大きく減らせる特例の適用条件が厳しくなった。これまで認められていた節税対策が無効になることもあり、都心の一等地では数千万円単位で税額が増える可能性がある。厳格化されたのは主に「家なき子」と呼ばれる規定だ。どう対応したらいいのか考えた。

「家なき子とは認められなくなったので、作戦を練り直すしかないですね」。税理士の橘慶太氏は最近、会社を経営する50代のAさんにこう伝えた。

作為的な節税策、封じられる

Aさんの両親は高級住宅地に一戸建ての家を構えて夫婦2人で暮らしている。その土地は将来Aさんが相続する予定。そのときに備えて練っていた節税対策を見直す必要があるというのだ。どういうことか。

相続税制では家の土地を相続する場合、その評価額を8割も下げられる特例がある。税負担から家を売らざるをえない事態を避けるのが趣旨で、「小規模宅地等の特例」という(表A)。子どもが相続する場合は故人と生前、同居していたことが条件となる。

ただし、会社命令による転勤などの事情からやむを得ず別居するケースもあるため、救済規定がある。これがいわゆる「家なき子」。持ち家に住んでいないことを条件に特例の適用を認めている。

Aさんの節税対策は当初この規定に着目していた。住んでいる家の所有者名義を、自ら経営する会社に変更。形式的に家を持っていない状態にしようと計画していた。

ところが4月の税制改正によって、作為的に家なき子になる節税対策はほぼ完全に封じられた。Aさんのように持ち家を「特別な関係にある法人」に売却したり、子どもに贈与したりする節税対策は通用しなくなった。親に買ってもらった親名義の家に住んでいる人も家なき子ではなくなる。

遺言を書くことによって孫に土地を相続させる節税策も要注意。新しいルールによると、相続前の3年間に孫が「3親等以内の親族」、例えば自分の親の持ち家に住んでいた場合も特例は使えなくなる。

小規模宅地等の特例の適用件数は2015年分で6万7325。相続税の申告件数全体の5割を占める。区画の大きい高級住宅地だと数千万円の節税につながるケースはざらにあるが、今後は適用条件により注意を払う必要がある。

「特例による節税効果が数千万円にのぼるような人は、税制改正を機に親と同居する可能性をさぐるのが現実的ではないか」。アンカー税理士法人の今田隆幸税理士は指摘する。

ただし、家族を持ち家に残して自分だけが親と同居する場合は注意したほうがいい。税務調査で「同居」と認められない可能性があるからだ。

同居しているかどうかに明確な判断基準はなく、税務署が「実態」をみる。住民票を移すなどして形式を整えても、「親の家で寝起きしていなければ同居にはならない」と平松慎矢税理士はいう。

さらに同居親族として特例を使う場合は、相続が発生してから少なくとも10カ月間は、その家を手放さずに住み続けなければならない。税務調査の時点で住んでいなかったり売却したりしていると、相続から10カ月間、本当に住んでいたのか疑われるかもしれない。

電気やガス、水道といった公共料金の領収書があれば説明しやすい。ある税理士は「税務署はガスの使用量をよくみる」という。電気はつけっ放しができるが、ガスはそれが難しいからだ。税理士の渡辺浩滋氏は「なぜ売ったのか、なぜ引っ越したのかなどをしっかり説明できることも重要」と話す。

小規模宅地等の特例は、故人が経営していた賃貸アパートや、駐車場の土地を親族が相続するときも使える。自宅の土地との併用には制限があるが、土地評価は200平方メートルまで5割減で節税効果は大きい。15年分の相続税申告では2万3819件の適用があった。

駐車場事業にも網

これら「貸付事業用」の土地で特例を使う場合も、4月から適用条件が厳しくなった(表B)。亡くなる直前に節税目的で駐車場などを買い、相続発生後に特例を使って申告し、すぐに売却するような節税対策はできなくなった。その土地で「相続まで3年超にわたって貸付事業をしていた」という条件が加わったからだ。

もっとも、亡くなった人が別の土地で3年超にわたり「事業的規模」で貸付事業をしていた場合はこの条件は付かず、これまで通り特例を使える。節税目的ではなく、たまたまその時期に買った土地とみなすわけだ。

事業的規模については今後、通達で定められる見通しだが、アパートの家賃収入など不動産所得は所得税法に「5棟10室」の基準がある。相続税もこれにならうとすれば一戸建てで5棟以上、賃貸アパートなら10室以上という基準になるはずだ。

ただし、特例に詳しい高橋安志税理士は「かつて相続税にも5棟10室の通達があったが、当時は共有建物の持ち分をどう扱うかなど細部で所得税と基準が異なっていた」と指摘する。事業的規模として所得税を納めていても、相続税の扱いが同じかどうか改めて確認しておきたい。

遺言信託という商品で約3万3000件の遺言を預かる三菱UFJ信託銀行は、税制改正に伴い特例が適用できなくなるケースが一部あるとみる。このため同商品のすべての顧客に順次周知していくという。家なき子で特例を使うつもりで遺言を書いている場合などは、書き換えの必要が出てくるかもしれない。

(表悟志)

[日本経済新聞朝刊2018年4月7日付]

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