3次元キャラ「バーチャルユーチューバー」増殖中
動画共有サイト「ユーチューブ」の中で、「バーチャルユーチューバー」と呼ばれる3D(3次元)のキャラクターが増殖している。人間の動作をそのまま3D映像として反映する技術を使い、キャラクターを自在に動かす。ゲーム会社などから新たな広告の手段として注目を集めている。
「今流行りの『スーパーマリオオデッセイ』をやっていきたいと思います」。72万人の登録者を抱える、ユーチューブのゲーム紹介チャンネル「A.I.Games」。通常のゲーム紹介チャンネルは人間の「ユーチューバー」がプレーしながらゲームを解説するが、ここでゲームを紹介するのは美少女キャラの「キズナアイ」だ。

キズナアイは「バーチャルユーチューバー」の代表格。サイバーエージェント子会社のCA Young Lab(CAヤングラボ、東京・渋谷)の調査によると、登録者が50万人をこえるユーチューブのチャンネルは229件しかない。登録者が数百万人を超えるヒカキンなどの有名ユーチューバーにはかなわないが、キズナアイはかなりの人気を誇るといえる。
バーチャルユーチューバーの増加の背景には「モーションキャプチャー」と呼ばれる技術の進化と普及がある。人間が光を反射するマーカーを付けた専用スーツなどを着用。専用のカメラで人の動きを撮影すると、マーカーによって反射された光を捉え、動きをそのまま3Dの映像に落とし込む仕組みだ。専用のヘッドギアなどをつけると、顔の表情まで似せられるという。
一から3D映像を作るよりも簡単で、これまではアニメやゲームなどに使われてきたが、動画コンテンツの市場が拡大するに伴いユーチューブ内の3Dキャラの制作に活用され始めた。バーチャルユーチューバーは美少女キャラなどが多く、声も重要。裏で演じるのは声優が多く、キズナアイも女性声優が声と動きを担当しているとみられる。
バーチャルユーチューバーを広告などに使う動きも出てきている。CAヤングラボは3月23日から、バーチャルユーチューバーの動画を配信し、企業の宣伝をするタイアップ広告サービス「バーチャルクリップ」の提供を始めた。スマートフォン(スマホ)ゲームの企業のゲーム実況動画などの需要を見込む。
バーチャルユーチューバーの市場拡大を示す定量的な統計はないものの、CAヤングラボの須田瞬海最高経営責任者(CEO)は「ここ半年で急激にバーチャルユーチューバーの市場が拡大しているように感じる」と語る。現在は、800件以上のバーチャルユーチューバーチャンネルがあるという。キズナアイは主演のテレビ番組が決まったり、訪日促進アンバサダーになるなど、その活躍はユーチューブの外にまで広がりつつある。
CAヤングラボの調査では日本のユーチューバーの17年の市場規模は219億円で、16年の2.2倍となった。著名なユーチューバーはUUUMなどの事務所に所属しているが、今後、バーチャルユーチューバー専門の事務所ができる可能性もありそうだ。一方で、「広告としてバーチャルユーチューバーを使うケースはまだ多くない」(須田氏)。拡大し続けるユーチューバー市場で人間と3Dキャラクターが入り乱れた競争が激しくなりそうだ。
(毛芝雄己)
[日経産業新聞 2018年4月6日付]
関連企業・業界