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ラグビー・ジョーンズ氏がしかけた「内なる革命」

ラグビーのイングランド代表が転機を迎えている。エディー・ジョーンズ監督就任以来の快進撃が一転、今年の欧州6カ国対抗は5位に沈んだ。現地では監督の進退を問う声も出始めた。しかし、当の本人は落ち着いたもの。2019年ワールドカップ(W杯)日本大会を照準に、「内なる革命」を進めている自負があるからだ。

就任後初の3連敗に「失望」

ジョーンズ監督は「チームの内側を変えようとしている」と強調する

「この結果に失望している」。6カ国対抗の最終戦でアイルランドに15-24と敗れた直後、ジョーンズ監督はこう話した。大会史上初の3連覇に挑みながら、終わってみれば、5チームで争っていた1984年以来の順位に低迷。自身の就任後、初の3連敗も味わった。

結果だけでなく、内容もよくない。最初の2敗の一因は、タックル後の密集戦の劣勢だった。イングランドの攻撃の弱みを狙い撃ちされたような形。ピッチの中央付近でFWがつくる密集を少人数で制し、次の攻撃に人手を割くはずが、前段の密集に重圧を掛けられ、ボールを奪われた。

2勝2敗で迎えた最後のアイルランド戦では「攻撃の選択肢を絞った」とジョーンズ監督。FWが孤立しやすいプレーを制限したとみられる。その効果か、密集戦で攻守交代を許した回数が2度に半減した一方で、攻めが単調になる副作用も発生した。好機をつくりながら崩しきれない場面が目に付いた。

最後まで修正が効かなかった欠点もあった。アイルランド戦の後、ハートリー主将が悔やんだ。「密集戦は良くなったけど、ペナルティーは改善できなかった」。反則の数は3試合とも2桁を記録。勝負どころや、不注意からのものが目立ち、一時退場者も2度出してしまった。

「チームの内側変える」

大会後、現地のメディアでは監督の采配に数々の疑問が呈されている。選手の蓄積疲労に対する配慮の欠如、攻撃戦術の担当コーチの不在……。「決断力のあるジョーンズ氏がラグビー協会の幹部だったら、もう監督をクビにしているだろう」。皮肉交じりに解任論を載せる新聞もあった。

厳しい批判の中でもジョーンズ監督は強気を崩していない。アイルランド戦後の記者会見では、こうも語った。「今はチームにとって必要な時期だ。チームの内側を変えようとしているからだ」

翌日、本人にその詳細を聞く機会があった。具体例の1つがコーチ陣の役割変更だという。「今大会では各アシスタントコーチに1試合ずつ、監督の役割を任せた。経験を与え、より強いコーチングスタッフをつくるためだ」。選手選考などの大枠はジョーンズ氏がみるが、細部の戦術や練習の指導などをコーチに委ねたという。

有能なコーチでも、専門領域を離れて急にチーム全体を指揮するとなると簡単ではない。短期的には戦術の落とし込みなどに支障が出るだろう。修正力の高いジョーンズ監督にしては珍しく、同じような形の敗戦が続いた一因は、ここにあったのかもしれない。

選手にもチャレンジを求めている。「全く新しい役割のコーチを今大会から呼んだ。リーダーシップに特化した指導をしてもらっている」。監督の母国、オーストラリア出身のスポーツ科学者を招き、8人の選手に週に1度、心理的なトレーニングを授けている。

リーダーシップ持った選手に

「トロフィーをつかむチームには、5~8人のリーダーがいる。(ジョーンズ氏が率いた)15年W杯の日本代表にも、リーチ・マイケル、田中史朗、堀江翔太、畠山健介、五郎丸歩の5人がいた」

「5~8人のリーダー」を育てようと、リーダーシップに特化したコーチも起用した

2つの新しい挑戦は、19年W杯のライバルに近づくためだ。「ニュージーランド代表がW杯で2連覇できたのは、スタッフに3人の監督(の能力を持つコーチ)がいたからだ。選手のリーダーシップが十分に存在する、世界で唯一のチームでもある」

今年の6カ国対抗で全勝優勝を果たしたアイルランドも追いかける対象に挙げる。「ベスト主将、オマホニー、マレー、セクストン、カーニーという強力なリーダー陣の存在がアイルランドの強さを支えている。今のイングランドにはそれが足りない」

どちらの取り組みも即効性のあるものではない。それどころか、選手個々にチームを引っぱる意識を求めることで、「いまはポジティブというよりも選手同士の衝突が生まれている」と明かす。「しかし、この衝突がポジティブなものをつくる。いま、選手同士が練習中に『まだまだ(激しさなどが)足りないぞ』と言い合っている。以前にはなかった姿だ」。成果の兆しは見え始めていると実感しているようだ。

変わる兆しも、次は南ア戦で結果を

ジョーンズ氏にとって、タイミングを見計らった末の挑戦でもあった。コーチ陣に週替わりの監督をやらせたのは約20年ぶりという。前回はスーパーラグビーのブランビーズ(オーストラリア)を率いたときだった。

導入するための条件はいくつかあるが、「実験はたいてい敗戦に結びつき、痛みを伴う。だからそれまでに多くの試合に勝ち、信用を築いておかないといけない」と話す。

ジョーンズ監督は16年の就任後、昨年まで6カ国対抗を2連覇。強豪国としては史上最多タイとなるテストマッチ18連勝も果たした。"ラグビーの母国"の初の外国人代表監督に向けられる懐疑の声を実績で封印。ようやく実験のための時間を得られたと判断したのが今大会だった。

ただ、今回の6カ国対抗の不振で、信用の"貯金"は底をつきつつある。次は6月に南アフリカに赴いての3連戦だ。何より結果が求められることは、本人が一番わかっているはず。再び信頼を取り戻す戦いにできるか。それは同時に、1年後のW杯に向けて「内なる革命」の成果を試す場にもなる。

(谷口誠)

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