日印逆転にらみ共闘 トヨタ、スズキと相互OEM
トヨタ自動車とスズキは29日、インドで車両の相互OEM(相手先ブランドによる生産)供給を始めると発表した。背景にあるのは世界3位に迫っているインドの成長力だ。日本で圧倒的なトヨタも存在感が薄く、シェア4割超のスズキの力を借りる。中国の浙江吉利控股集団が独ダイムラーに出資するなど、新旧市場の逆転が業界の地図も変えつつある。
「両社にメリットがあるやり方で一致した。これからも(協業を)続けていく」。スズキの鈴木修会長は29日、本社のある浜松市内でこう語った。

19年春にもインドでOEMを始める。スズキはトヨタから「カローラ」のガソリン車とハイブリッド車を調達し、上級車種として販売。トヨタはスズキから小型車「バレーノ」と多目的スポーツ車「ビターラ・ブレッツァ」の供給を受ける。だが、今回の協業で主にメリットを享受するのはトヨタの方だ。
トヨタのインドでのシェアは17年に3%。31%の日本、14%の米国と比べ伸び悩んでいる。インドで最もニーズのある低価格な小型車の品ぞろえが弱いためだ。販売エリアが180カ国・地域にわたるトヨタの強みは世界共通仕様の車づくり。「新興国に特化した安い車づくりではトヨタの知見が通用しにくい」と同社幹部も認める。

一方、スズキはアジアが中心。特にインドは同社の世界販売の半分を占める主戦場だ。1983年に現地生産を始め、市場の成長とともに確固たる地位を築いてきた。車づくりも現地に合わせた一点突破型だ。17年には160万台を売り、トヨタの日本での販売台数にほぼ肩を並べている。「これからもメーク・イン・インディアにまい進します」。17年9月、インド西部グジャラート州の国際会議場で、鈴木会長は強調した。
英IHSマークイットによると、インドの20年の新車販売台数は17年比3割増の510万台。466万台の日本を抜き、中国、米国に次ぐ世界3位の市場となる。収益源の日本や米国の成長が頭打ちになるなか、トヨタにとってインドの開拓は宿願だった。

17年2月に包括的な提携を結んだトヨタとスズキ。3月には豊田章男社長と鈴木会長、インドのモディ首相の3人が会談するなど、それぞれの距離を徐々に縮めてきた。実現まで1年かかったのは、インド政府への配慮に慎重を期したためだ。29日の発表文にも「インドの環境負荷低減やエネルギーセキュリティーにも貢献」など政府に配慮した表現が並んだ。
世界を見渡せば新興国や今後の成長分野に強いメーカーが提携の呼び水になっている。中国の吉利はダイムラーに1兆円規模を出資し筆頭株主となった。電気自動車向け電池などでの協業が予想される。日産自動車が三菱自動車を傘下に収めたのも、三菱自が東南アジアに強いためだ。
自動運転やライドシェアなど車を取り巻く環境自体が大きく変わりつつある。今後は米グーグルなどIT(情報技術)勢との競争も激しくなる。その意味で、車を相互融通するトヨタとスズキの今回の協業の形が従来の枠を出ていないのも事実だ。様々な場面で起きつつある逆転現象にどう対応していくか。柔軟さとスピードがかつてなく重要になる。
(杜師康佑、押切智義)