関東の盟「酒」、埼玉か千葉か 清酒出荷量競う
関東の酒どころ、埼玉県と千葉県が出荷量拡大へしのぎを削っている。2017年度の日本酒出荷量では「関東一」の座を巡り僅差の争いとなる見通しで、埼玉県は官民を挙げて蔵元を応援する。県内全35蔵の地酒が飲める施設も誕生した。大手が引っ張る千葉県では中小の蔵元が海外市場に挑戦する動きも活発化している。日本酒市場が縮小傾向にあるなかで、出荷量を増やそうと様々な工夫を凝らす。

日本酒造組合中央会(東京・港)によると、16年度の埼玉の日本酒出荷量は2万787キロリットルで全国5位だった。秋田に抜かれ前年より順位を落としたが、巻き返しを期した17年は各蔵元の努力もあり、1~12月の合計で逆転。18年も出荷ペースを維持し、3月までの17年度の実績で兵庫、京都、新潟に次ぐ全国4位への返り咲きを狙う。
この4位争いに割って入ったのが、16年度に6位だった千葉だ。17年1~12月の合計は2万925キロリットルに上り、埼玉(2万1153キロリットル)に肉薄。足元のペース次第では17年度の実績で逆転する可能性もあり、埼玉側は気をもんでいる。
そんな埼玉には10日、頼もしい「援軍」が登場した。川越市産業観光館「小江戸蔵里」内に県内全35蔵の地酒を集めた「ききざけ処」が開業。おちょこを片手に自動販売機で全40銘柄の飲み比べができ、気に入った酒を買える土産コーナーも充実している。

8日の関係者向け内覧会には上田清司県知事も訪れ、杯を傾けながら「最高だ」と太鼓判を押した。埼玉県酒造組合(熊谷市)の担当者は「川越を訪れる観光客に埼玉の地酒の魅力を知ってもらうことで、全国各地での消費増につながれば」と期待する。
上田知事をはじめ、埼玉県内の支援体制は強力だ。経済人らでつくる任意団体「埼玉地酒応援団」は2月に新春の集いをさいたま市で開き、ほぼ全蔵の地酒を会場に集めてPRした。元副知事で団長を務める都筑信氏は「頂点をめざし、全国どこでも味わえるという状況をつくるべくみんなで努力していきたい」と力を込める。
次代を担う杜氏(とうじ)を育成するために埼玉県酒造組合が05年に始めた「彩の国酒造り学校」は、17年度までに100人近い卒業生を輩出。酒造会社の若手経営者らでつくる「埼玉県吟友会」も地酒イベントを積極的に開くなど、埼玉の地酒の知名度向上やブランド化に向けた動きが着々と進んでいる。
■千葉の中小、海外開拓
埼玉県と競い合う千葉県の出荷量は、京都市に本社を置く宝酒造の松戸工場(松戸市)が大半を占める。千葉県酒造組合によると、残りの地元中小の出荷量は減少傾向だが「吟醸系の日本酒など付加価値の高い商品の生産は増えている」という。高品質を武器に海外向けに売り出すメーカーも相次ぐ。
亀田酒造(鴨川市)は2018年中に台湾へ輸出する。国際的な食品品評会、モンドセレクションで16年から2年続けて最高金賞を受賞した「超特撰大吟醸・寿萬亀」などを富裕層に販売する。亀田雄司社長は「海外でブランド力が向上すれば国内での認知度も高まる」と期待する。
同社は17年秋、輸出拡大へ大吟醸などの低温冷蔵倉庫を新設した。容量は4合瓶(720ミリリットル)で10万本と、従来の16倍に拡大。増産に備えるとともに、低温管理の徹底で品質を高める。10年後に海外売上高を全体の1割に伸ばす計画だ。
「甲子正宗」などのブランドを展開する飯沼本家(酒々井町)は日本酒の基礎知識や料理との相性について解説する英語版のパンフレットを製作し、17年から米国の酒類バイヤーなどに配っている。販促に利用してもらいファンを増やす。
国も後押しする。東京国税局は28日、宿泊施設の従業員に「酒セミナー」を千葉県内で初めて開く。お酒に詳しい国税局の鑑定官が講師を務め、利き酒や料理との相性について解説する。
国税局の担当者は「十分な知識を得たうえで訪日客に日本酒を勧めてもらい、お土産に持ち帰ったり、帰国後に通販で取り寄せたりするきっかけにつながってほしい」と話している。
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