米輸入制限、EU・韓国など適用除外へ 23日発動
【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権は23日に鉄鋼とアルミニウムの関税を引き上げ、強硬的な輸入制限を発動する。強硬策を振りかざす一方、4月末までに確定する適用除外を材料に相手国から個別に譲歩を引き出す狙い。カナダとメキシコは除外が決まり、欧州連合(EU)や韓国なども除外される見通しだが、日本は出遅れている。露骨な「米国第一主義」に、各国は距離感をはかりかねている。
輸入制限は米国時間23日午前0時1分(日本時間同午後1時1分)に始まる。カナダ製とメキシコ製は除外するものの、同時刻以降に米国に運び込まれた鉄鋼には25%、アルミニウムにも10%の追加関税を課す。
発動するのは、安全保障を理由に輸入制限する通商拡大法232条だ。鉄鋼であれば、海外勢の不当廉売で国内供給力が落ち、武器製造や防衛技術の維持が難しくなるという理屈だ。ただ、米国の鉄鋼消費量のうち、防衛産業の割合は3%にも満たないとされ、今回の措置が強硬的な貿易是正策であることは明白だ。
実際、トランプ大統領は8日、輸入制限を表明した場で「米国は年8000億ドルもの貿易赤字を抱えている。どの国が我々を公正に扱っていくのか見ていきたい」と主張した。鉄鋼・アルミの関税の適用を除外するには「個別交渉が必要だ」としており、関税適用をちらつかせつつ、除外を認める代わりに市場開放や新たな負担など譲歩を引き出す姿勢が明白だ。

カナダとメキシコについては適用を除外するとも言及。両国とは既に北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉を舞台に譲歩を迫る機会がある。
米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は21日の議会証言で、「4月末までに適用除外国を確定する」と述べた。EUと韓国、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジルが除外対象になる見通し。
EUは、21日に適用除外を求めて訪米したマルムストローム欧州委員(通商担当)がロス米商務長官と共同声明を公表。米欧双方が受け入れ可能な打開策を目指し、早急に協議に入ることで合意した。韓国も対米自由貿易協定(FTA)の再交渉中で、米国は関税除外と引き換えに何らかの譲歩を引き出そうと動く。
オーストラリアとアルゼンチンは、そもそも米国が貿易黒字を計上しており、トランプ政権に通商政策面で不満がない。
一方で日本は河野太郎外相が15日に訪米し、ライトハイザー氏に適用除外を要請。「言うべきことは全て伝えた」(外務省幹部)。しかし、ライトハイザー氏は21日の議会証言では、日本には「適切な時期にFTA交渉を始めたいと要望している」と述べただけで、適用除外の可否については言及しなかった。
今回の輸入制限は、米国内で調達困難な特定製品も追加関税を除外する。米商務省は19日から審査の受け付けを開始。最長90日の審査を経て、米国内で調達するのが難しいと判断すれば、関税を課すのを取りやめる。
23日に輸入制限を発動すれば、商務省は米国の鉄鋼輸入量が36%減るとみている。鉄鋼工場の稼働率は現在73%にとどまるが、輸入制限で80%まで引き上げられるとみている。
ただ、政権が見込む雇用拡大は疑問だ。海外製の鉄鋼に反ダンピング(不当廉売)課税を乱発したため、米国の鋼板価格は既に世界平均より2~3割も高い。鉄鋼の追加関税でコスト増に直結する建設業や自動車産業は雇用が減少し、鉄鋼業の雇用増を差し引いても、全米で就業者が14万人強も減るとの民間試算がある。
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