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松坂と村田が秘める復活への覚悟

米大リーグから上原浩治と青木宣親が日本に戻ってきた。それぞれ巨人、ヤクルトと古巣に復帰し、渡米前の雄姿を重ね合わせては「あのころの輝きを再び」と願っているファンは多いだろう。2人が今なお一線級の力を持つ一方、同じ元大リーガーでも全盛期をとうに過ぎてしまったのが松坂大輔だ。

「まだやれる」今の踏ん張りが今後の糧に

2015年に日本球界に復帰してソフトバンクに入ったが、右肩痛に苦しみ、昨年までの3年間でわずか1試合に投げただけ。去就が注目された中、今年1月に中日入りが決まった。推定年俸は1500万円。かつてレッドソックスとの独占交渉権を巡って約60億円という莫大な落札金を古巣の西武にもたらし、鳴り物入りで大リーグ入りしたころがずいぶん前のことに感じられる。

ただ、彼は今やお金でやっている選手ではない。「このまま終わりたくない」という意地と、「まだやれる」という自信が「選手・松坂」を支えているのだろう。衰えが顕著な中での現役続行はかっこ悪い、と思う人もいるだろうが、あれほどの実績を残した投手が「燃え尽きるまで」ともがく姿は、見方によってはかっこいいともいえる。

力は衰えても、現役にこだわり踏ん張る松坂を見るのは楽しい=共同

松坂のように長く日の当たるところを通ってきて、最後に苦しい思いをする選手は少なくない。ただ、長い目で見れば、その苦しみは人生の糧になるはずだ。松坂と同じく西武のエースとして活躍した渡辺久信などはその典型。選手として下り坂になってからヤクルトに移り、そこでも戦力外になると台湾に新天地を求めた。選手兼任コーチとして、言葉の壁に苦しみながらも選手の指導と技術の普及に努めた経験が、後に監督として復帰した西武でチームを日本一に導く礎になった。

松坂には、エースの座から降りた後の渡辺のような足跡をたどってもらいたい。力が衰えてなお、踏ん張って現役を続けることは並大抵のエネルギーではできない。そこはファンとしても見応えがあるところ。いいときは誰でも応援しやすいし、楽しいだろうが、瀬戸際で踏ん張っている姿を見るのも楽しい。

中日の森繁和監督は、松坂がプロ入りした1999年に西武の2軍投手コーチを務めていた。今は中日で編成の仕事をしているデニー(友利結)も、西武で松坂と同じ釜の飯を食っている。松坂の中日入りはそうした縁も関係しているだろう。森監督とすれば、松坂が勝つことはもちろん、彼の若い投手への影響力にも期待しているはず。百戦錬磨のベテランの存在は、チームの将来を背負う若手の範となる点で欠かせないものだからだ。

松坂と同学年で、同じく次の行き先が注目されていた前巨人の村田修一は独立リーグ、ルートインBCリーグの栃木への入団が決まった。日本野球機構(NPB)のチームに返り咲く夢を抱きつつ、独立リーグで一から出直す覚悟を決めたのだろう。

それにしても、過去3年間で1試合にしか投げていない松坂が中日に移ることができ、昨季100安打をマークした村田がNPBのどのチームからも声がかからなかったのは、一体どうしたことか。

村田が入ることで若い野手を育てる機会を摘んでしまう、と獲得を見送った球団があったようだが、おかしな話だ。レギュラーは「育てる」ものではなく「育つ」ものである。村田がいて試合に出られないようではまだ戦力とはいえず、村田を押しのけてこそ本当のレギュラーと胸を張れるはずだ。初めから競争をさせずにポジションを与えるのは本来あり得ない話で、労せずして定位置をつかんだところで真の実力はつかず、本人のためにもならない。

未熟な若手の重用は監督の言い訳

振り返ると、巨人時代の村田は実力に見合った評価を受けてこなかった。チームでも指折りの大砲なのに8番を打たされ、好機では代打を出されることもあった。16年は25本塁打、打点81とチームトップの成績を収め、三塁手部門のベストナインになったにもかかわらず、翌17年の開幕戦でスタメン三塁手を務めたのはケーシー・マギー。村田はしばらく代打要員に甘んじた。

NPB返り咲きを目指し、ルートインBCリーグ栃木に入団した村田修一=共同

前の年にベストナインに輝いた選手がポジションを与えられないという、常識では考えられないことを巨人はやった。5月末、指名打者制が使える交流戦が始まると一塁手としてスタメンで出るようになり、交流戦が終わってマギーが二塁に回るとようやくスタメン三塁手の座を取り戻したが、どうにも「便利屋」として使われた印象が拭えない。それでシーズンが終われば今度はクビ。かわいそうで仕方なかった。

私が阪神でベンチを温めていた現役時代の終盤、「今、出ているやつらより俺の方がやれるぞ」と思ったものだ。監督は「若い」というだけで若手を使ったが、「それは違うぞ」と思っていた。若い選手を起用し、負けたときに監督が「今は育てているところなので、我慢してください」と言い訳をするのは寂しい話。現有戦力でトップの9人をグラウンドに送り出すことが監督の責務であり、最大のファンサービスであって、「将来性」という言葉を振りかざして未熟な若手の重用に走るのは、監督が自身の逃げ道をつくるようなものだ。それこそ、三塁が弱いチームが村田の獲得を見送ったのは「逃げ」以外の何ものでもない。

村田は栃木の入団会見で地域貢献活動への意欲を表したという。横浜(現DeNA)で不動の4番としてならした男が、草の根から出直そうとしている。松坂と同じで、その苦労が報われる日は必ず訪れるだろう。独立リーグで地道にプレーし、今は見向きもされないNPBのチームにいずれ三顧の礼で迎えられる――。そんな痛快な"逆転サヨナラ本塁打"を見てみたいものだ。

(野球評論家 田尾安志)

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