/

一撃必殺のスナイパー 日本ハム・近藤に託す夢

編集委員 篠山正幸

つかの間とはいえ、昨季、4割打者誕生への期待を抱かせた日本ハム・近藤健介(24)が、今季のオープン戦でも突き抜けた境地に達したかのような打棒をみせている。「夢」の続きは見られるだろうか。

近藤は昨季、開幕から打率4割をキープ。50試合まで伸ばしたところで、故障に見舞われて離脱。脊椎の手術を経て、シーズンの最後に復帰した。167打数69安打、4割1分3厘という数字が残った。

光る正確無比なスイング

近藤は「1球で仕留めることが課題」と語る=共同

規定打席数は443。その半分ほどの打席数だから、あくまで参考記録であり、さあ今季は前人未到の打率4割に挑戦、などと書いたら笑われるだけだろう。

だが、シーズン終了後、日本、韓国、台湾の代表が集った「アジアプロ野球チャンピオンシップ」でみせた打棒や、オフを挟んでの進境をみると、ひょっとすると近藤は打撃の奥義を得たのかもしれない、とも思えてくる。何か、とんでもないことをしでかしそうなにおいが、そこに漂っている。

チャンピオンシップでは12打数7安打。ほとんど初対面の投手にも難なく対応した。選球眼を生かして球を選び、甘くなったところを一振りで仕留める正確無比なスイングが光った。

一冬を越しても昨季の4割は勢いだけではなかったことを感じさせる。

10日のDeNAとのオープン戦では右前打に左翼への本塁打と打ち分けた。本人は「1球で仕留めることが課題。確率を上げていければ」と話したが、コンスタントに安打を放っており、すでに一撃必殺のすごみをたたえている。

栗山英樹監督も高いレベルで「安定している」と認める。

横浜高からドラフト4位で入団し、今季が7年目。早くからその打撃センスで頭角を現し、2015年には打率3割2分6厘でリーグ3位に食い込んでいる。だが、故障がちで規定打席に達したのはこの年だけ。

肉体強化、あえて捕手に再挑戦

栗山監督はシーズンフルに出場するための方策を、本人とじっくり話し合ってきたという。一案として出てきたのが捕手復帰だった。

もともと捕手だが、打撃を生かすために右翼を守ることが多かった。今季、あえて捕手に再挑戦させる意図について、栗山監督は体に負荷をかけ、1年戦い続けられる肉体をつくりあげることを挙げている。

もちろん、チーム全体の利益のこともある。大谷翔平(エンゼルス)が去り、再構築の過程にある日本ハム。「近藤がずっと捕手を務められれば、一番強い」と栗山監督が言うように、反転攻勢の核になるのが「捕手近藤」の一手だ。

近藤が扇の要に座ったうえで、首位打者のタイトルを獲得するような活躍をしてくれれば、打線の切れ目がなくなり、チームの力は最大化する。

懸念されるのは打撃への影響だ。捕手として配球を考えることが自身の打撃にプラスになるという見方もあれば、守備の負担増加により、打席への集中力がそがれるという見方もある。

栗山監督は「マイナスはない」との判断のようだ。

捕手再挑戦が近藤の打撃にどういう影響を与えるのか=共同

一方の近藤は「(打撃への)影響をいわれるが、それを(打てなかったときの)言い訳にはしたくない」と話している。捕手への挑戦の決意を示した言葉だが、守備の負担は決して小さくないこともうかがえる。

首脳陣としては当面、第2、第3の捕手として用意してもらい、捕手の打順での代打策など、用兵上の選択肢を増やす狙いもあるようだ。果たして捕手としての出場試合数がどれだけのものになるのか。そのあたりも注目されるところではある。

打率4割、おとぎの国の数字?

今季マリナーズに復帰したイチローですらなし遂げられていない打率4割は「おとぎの国の数字」といっても過言ではない。

メジャーでは近代野球とされる1900年以降、8人、延べ13人が達成しているが、41年のテッド・ウィリアムズ(レッドソックス)が最後。第2次大戦後、打率4割をマークした者はいない。

日本プロ野球の最高打率は86年、ランディー・バース(阪神)の3割8分9厘だ。

重力によって、自然界の動物や人間の跳躍力、投てき能力に"限界"が定められているのと同様、打率にも自然の摂理のごとき限界が設けられているようにもみえる。1カ月くらいは好調が続いて、打率5割ということがあっても、長いシーズンの中、300、400という打席をこなしていけば、打率は必ず落ち着くべきところに落ち着いてくる。それが統計の世界でもある野球の常識でもある。

打率4割はその常識への挑戦にほかならない。壁の高さを考えると、始まってもいないうちから話題にすべきではないのだろうが、開幕前の一時期だけ許される夢想というものもある。

愛嬌(あいきょう)のある表情と、失敗のないスナイパーを思わせるハードボイルドな仕事ぶり。そのギャップが増幅させる近藤の打撃のすごみに、しばし夢を抱いていたい。

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン