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日本版「司法取引」6月スタート、捜査の武器に

冤罪懸念、当面は抑制的に

他人の犯罪を明かす見返りに、容疑者や被告の刑事処分を軽くする「司法取引」が6月1日から導入されることが決まった。経済犯罪や組織犯罪に迫るための強力な武器となる半面、虚偽供述による冤罪(えんざい)リスクは払拭できない。当面、運用は抑制的になりそうだ。

「不正はすべて社長の指示でした。これからお話しします」。ある会社の粉飾決算事件で検察の取り調べを受けていた経理担当社員が、意を決したように話し始めた。半月後、社員は起訴されず、社長が法廷で裁かれることになった――。

司法取引が導入されると、取調室でこんな場面が繰り広げられることになりそうだ。

司法取引には大きく分けて2種類ある。自分の罪を認める代わりに罪を免れたり刑罰を軽くしたりする「自己負罪型」と、他人の事件の捜査や公判に協力する見返りに不起訴や軽い求刑を約束させる「捜査公判協力型」だ。

米国では両方を認めているが、日本の制度は後者のみ認めている。政府は司法取引という名称ではなく「協議・合意制度」と呼ぶ。合意には弁護人の同意が必要だ。個人だけでなく、企業など法人も当事者になる。

対象となるのは主に経済犯罪と暴力団などの組織犯罪だ。政府は16日に閣議決定した政令で、法律に明記されている贈収賄や詐欺、薬物銃器犯罪に加え、脱税や独占禁止法、金融商品取引法などを指定した。殺人や性犯罪は対象外だ。

企業や暴力団がかかわる犯罪で上層部の関与を証明しようとしても、やりとりを示す具体的な証拠が少なく、犯罪を立証するには関係者の供述に頼らざるを得ないことが多い。罪の減免というメリットを用意し、重い口を開いてもらうのが狙いだ。「特捜部が手がけるような『ホワイトカラー・クライム』と呼ばれる企業犯罪で威力を発揮する」。検察幹部はこう期待する。

ただ年間何件程度の事件に適用されるかなどは不透明だ。

「運用の仕方によっては国民の信頼を得られない恐れがある」。2月、全国の検察幹部が集まった会議で、西川克行検事総長は慎重な運用を呼びかけた。

検察内部でも冤罪への懸念は大きい。虚偽の供述をした場合は5年以下の懲役に処せられるが、罪を逃れたい一心で無関係の人を巻き込む可能性は否定できない。証言が事実かどうかの裏付け捜査も徹底する必要がある。ある幹部は「制度の定着は1号案件の成否にかかっている」と話す。

当面、容疑者や被告側が取引を持ちかけても検察は簡単に応じないのではないか、との見方も出ている。企業の危機管理に詳しい弁護士は「検察側が確実に取引に応じると確証が得られるまで手の内は一切見せられない」と漏らす。

司法取引の先行事例ともいえるのが、2006年に始まった独占禁止法の課徴金減免(リーニエンシー)制度だ。価格カルテルや入札談合を自ら申告した企業の課徴金を免除したり、減額したりする。

当初は「仲間を売るような制度は日本になじまない」との指摘もあったが、徐々に定着。2016年度は124件の申請があった。現在東京地検特捜部が捜査しているリニア談合事件でも、不正に関わったとされるゼネコン4社のうち2社が申請したとされる。

国際展開する日本企業の中には、外国の捜査機関と司法取引をした経験を持つところもあり、抵抗感はなくなっている。制度が始まれば、不祥事を起こした企業が自ら罪を申告して罰金などの刑罰を最小限に抑えようとする動きが広がる可能性もある。

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