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ブロックチェーンが通貨以外で当面普及しない理由

VentureBeat

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IT(情報技術)業界は値動きの激しい仮想通貨に対しては弱気になりつつあるが、その基盤となる技術への熱狂ぶりは依然すさまじい。今や「ブロックチェーン(分散型台帳技術)」は全く関係なさそうなスタートアップの宣伝にも驚くほど頻繁に登場している。この技術は本当に面白く、強力な用途があるかもしれないが、消費者向けに使うには大きな欠陥があることは、メディアではほとんど報じられていない。

筆者はユーザーが創造・構築し、仮想の商品を他のユーザーに販売する多人数参加型オンライン(MMO)ゲーム「セカンドライフ」に似た仮想世界の開発を手掛けている。筆者にとってブロックチェーンとは、仲介者を挟まなくてもユーザー同士での少額決済を可能にしてくれる「聖杯(究極の目標)」だ。だがこれは当分実現しないだろう。その理由は以下の通りだ。

全ての目標を同時にかなえられるわけではない

ブロックチェーンは現状では「速い、安い、分散型」という3つの相反する目標の板挟みになっている。1つのチェーンで3つ全てを達成するのはまだ不可能だ。履歴の保管には莫大なメモリーと回線容量が必要で、無駄な検索を打ち切る「枝刈り」をしてもどんどん増えていくため、速くて分散化されたチェーンのコストは高くなる。速さと安さを目指すなら、銀行のような機関を導入しなくてはならない(IoT向けの技術「タングル」が解決策として提案されているが、まだ完全には理解されていない)。

優れたクレジットカード処理会社は、件数が大量なら2ドルの取引を0.10ドルほどの手数料で決済できる。最大級のオンラインゲームは、1日100万件を超えるユーザー間決済を即座に手数料なしで管理する。それでも、遅くて高いブロックチェーンをまさにこうした問題に投入しようとしているスタートアップを筆者は5~6社挙げることができる。

カスタマーサポートはまるで悪夢

大半の消費者にとって、オンラインサービスのパスワード紛失は最近では珍しくもないちょっとした面倒にすぎない。電子メールでのリセットを要請するか、カスタマーサービスと話せばすぐに解決してもらえるからだ。

これに対し、ブロックチェーンのウォレット(電子財布)とそのパスワードはユーザーのハードディスクのファイルにひも付けられており、ブロックチェーンにアクセスしようとするユーザーにとっては絶対に重要だ。その性質上、これを復元する仕組みは一切ないからだ。「パスワードを紛失すれば、全てを失う」というのは消費者にとってはひどい仕組みで、ブロックチェーンでサービスを構築しようとしている企業にとっては悪夢といえる。交換業者によるサービスを利用していればハッカーの主な標的であり、資産の追跡能力も限られるため、盗難や資産を突然失うリスクがある。

ブロックチェーンで購入するオンラインゲームなどの消費者向けサービスを運営すると想定しよう。返金リクエストをどう処理するのか。損失をどうやって確認するのか。盗難や盗まれたカードでの購入にはどう対処するのか。会社側が復元手順を備えたブロックチェーンの制御停止システムをつくることはもちろん可能だが、そうすれば分散型システムを使う意味はなくなってしまう。

これは、次のような問題につながっている。

既に円滑なプロセスに摩擦をもたらすだけ

ブロックチェーンは今のところ、消費者にとって非常に使いにくい。デジタルやオンラインでの決済を日々使っているユーザーがブロックチェーンを使って購入するには、訓練を積み、盗難に遭ったり怪しげなディーラーから買ったりしないよう、疑う心と自己責任の意識を適切に併せ持つことを学ばなくてはならない。撤回できない匿名の取引では信頼や誠実さは望めない。

追い打ちとなるのが、決済のスピードと手数料だ。大半のオープン型ブロックチェーンでは、高い取引手数料を払わない限りは決済に数分かかる。これに対し、高速モバイルインターフェースや欲しいモノがすぐに手に入る今の時代に、決済情報が保存されているクレジットカードを使えば、2~10秒で済む。

クローズド型ブロックチェーンを使えば、決済時間と手数料を適切に組み合わせられるようになるかもしれない。ただし、前述の相反する目標の影響は免れない。開発者があれこれ手を出し過ぎると、サービス妨害攻撃からメモリーや回線容量の問題まで何にでも首を突っ込むことになる。

仮想通貨イーサリアム上で動く猫の育成ゲーム「クリプトキティーズ」の最近のブームについて考えよう。これは消費活動にブロックチェーンを使うと行き詰まるうってつけの事例だ。これが原因でイーサリアムのネットワークは混雑し、クリプトキティーズは遅延を解消するために取引コストの大幅な引き上げを強いられた。クリプトキティーズの活動規模は数多くある中規模の消費者向けオンラインサービスのほんの一部にすぎなかったが、大規模なサービスの場合にはどうなるのだろうか。

こうした点はブロックチェーンの普及に必要な条件のほんの一部にすぎない。数百万人がブロックチェーンを使ったサービスを日々使うようになれば、各社はチェーンを維持し、承認目的でアクセスするために、これまでにないほど大量の保管メモリーが必要になるだろう。イーサリアムのブロックチェーンは今や年間50ギガ(ギガは10億)バイトを大きく上回るペースで増えている。これは即座にアクセスするには今でも大きすぎる上に、確実に増え続ける課題も抱える。

冒頭で述べたように、筆者はブロックチェーンには価値がないと示唆したいわけではない。筆者が提起した問題に対処する取り組みも進んでいる。だがブロックチェーンが真の発展を遂げるには、数千カ所に及ぶマイナーチェンジや、核となる考え方を徹底して見直す根本的な改良が必要になるだろう。

まずはブロックチェーンで解決できる問題を誠実に評価し直し、こうした問題がもっと実用的で効果も実証されている方法で対処できないかを検証すべきだ。ブロックチェーン支持者の多くはそもそも米国人作家ニール・スティーブンスンのSF小説「クリプトノミコン」を読み、暗号通貨というアイデアに興奮した。だが、偉大なSF小説で刺激的に思えたのと、実践するのとは別の問題だ。セカンドライフも、スティーブンスンの小説「スノウ・クラッシュ」の「メタバース(仮想世界)」に触発された。だが、血気にはやった多くのアバター(分身)による(セカンドライフの代用通貨)リンデンドルの決済や発行数百件を処理した経験から言わせてもらうと、実際のメタバースでビジネスを行うのも想像通りにはいかなかった。

By Adam Frisby =MMOや仮想現実(VR)のソーシャルプラットフォームを手掛ける英サインスペースの最高経営責任者(CEO)兼主任開発者

(最新テクノロジーを扱う米国のオンラインメディア「ベンチャービート」から転載)

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