ネット時代の「優越性」どう判断 アマゾン立ち入り検査
編集委員 田中陽
公正取引委員会が15日、アマゾンジャパンに立ち入り検査に入った。セールで値引きした分の数%~数十%を「協力金」として補てんするようメーカー側に不当に要求したとされ、これが独占禁止法の優越的地位の乱用にあたる疑いがあると公取委はみている。

古くて新しい問題
「こうなることは分かっていたが、落としどころがどこにあるのか、分からない」。ニュースを聞いた日用雑貨卸の幹部はこう話す。ここまでの展開は予想がついていたようだ。だがこれからが問題だ。
ネット通販の急速な進展と、巨大企業となったアマゾンの企業行動などを公取委が想定して独禁法を作ったわけではない。「何が優越的なのか」を判断するのは難しい。
一方、取引先も悩ましい。もしアマゾンとの商談を不服に感じて取引をやめたら、みすみす商機を逃すことになる。「従うのが得策」という声も聞こえてくる。
実は今から20年ほど前にも小売業とメーカーとの間で鋭く対立した問題があった。小売業の物流拠点の使用料や店舗まで配送する物流費などを「センターフィー」という費目でメーカーなどに請求していたのだった。当時も人手不足や物流費の上昇などがあり、一気に取引問題として浮上した。
センターフィーの算出基準が小売業者から明確に示されなかったためメーカーや卸から不満が噴出。物流の効率化や販売促進にどの程度寄与するのが分からなかったことで交渉は長期化したケースが多かった。
関係者によると、アマゾンは食品や日用品のメーカーに対し、販売額の1~5%を「協力金」として要求していたという。この「協力金」も同じような社会的背景のなかで誕生したものだと思われる。だが前回のような大ざっぱな商談とは異なり、IT(情報技術)企業としてのアマゾンは極めて精緻な需要予測などをして商談に臨んでいる。協力金の元となるのは商品の販売数量に準じて算出されるという。センターフィーのようなザルではない。
変わる「寡占」の定義
「アマゾンとの商談は生産計画にも役立つし、ネット広告と販売との関連性も分かる。実験室のような存在」(大手メーカーの営業担当者)。存在感が大きくなりすぎてひれ伏すしかない状況が日に日に高まっているのも現実だ。
約20年前のセンターフィー問題を巡っては公正取引委員会は「センターフィーが適切かどうかは小売り、卸同士が話し合いで解決する問題」との見解を示していた。今回の公取委の素早い対応は新たな商慣習の仕組みやそれができた過程を知ることが目的ではないだろうか。「商取引に官はどこまで関与していいのか」を自問することになる。
これまで小売業界の寡占の有無については百貨店、スーパーなどの業態ごとで決めたほか、地域という枠の中でも議論された。ところがアマゾンのようなネット通販は業態も地域も越えたビジネスモデルだ。寡占の定義もおのずと変わってくるだろう。
小売りとメーカーの力関係の変化は古くて新しい問題であり、落としどころを見つけるのは難しい。
(編集委員 田中陽)