源田や坂本勇… データが示す「守備の名手」
野球データアナリスト 岡田友輔
「野球は守りから」という。しかし守備力を客観的に評価するのはなかなか難しい。何しろ打率や防御率のような確固とした指標がない。いきおい、華麗なグラブさばきや強肩が光る選手が「名手」と呼ばれることになる。イメージ先行になりがちな守備の評価で役に立つのがセイバーメトリクスだ。新たな角度から光を当てることで、本当の名手が見えてくる。

最も知られている守備データは失策数だろう。失策が多ければ下手、少なければ上手というのは確かにわかりやすい。だが失策には重大な死角がある。「守備範囲の広さ」という大切な要素が抜け落ちているのだ。
たとえば三遊間の際どい打球に追いつきながらファンブルしてアウトにできなかった遊撃手と、追いつくことさえできず左前打にしてしまった選手。後者に失策はつかないが、前者にはつくかもしれない。これがフェアじゃないのは誰にでもわかるだろう。
■「得点価値」という指標
守備の目的は打者をアウトにすることだ。華麗なグラブさばきや強肩はその手段にすぎない。いくら不細工でもアウトにさえすれば守備の目的は果たしている。一方、アウトにできなければ、安打も失策も変わらない――。セイバーメトリクスではこうした前提に立ち、ある選手が同じポジションの平均的な選手に比べて何点分の失点を防いだかを算出する。
代表的なのは「UZR(Ultimate Zone Rating)」や「DRS(Defensive Runs Saved)」といった指標だ。本塁打のような野手が関与できない打球を除く全プレーをデータ化しなければならないので膨大な時間と手間がかかるが、米大リーグではかなり浸透し、ゴールドグラブ賞を選ぶにあたっても参照されるようになっている。
UZRについて大まかに説明すると、距離や方向に応じてフィールドを176ゾーンに分け、どこに、どのような打球(ゴロかライナーか飛球か、打球のスピードなど)が飛び、どのような結果になったかを記録する。アウトにできる確率が100%に近い打球というのは、定位置正面の簡単なゴロなど。50%ぐらいならアウトにすればナイスプレーという難しい当たり。20%以下なら普通は安打、アウトならファインプレーだ。
セイバーメトリクスには「得点価値」という指標がある。膨大なデータベースに基づき、すべてのプレーを得点への貢献度という尺度で測ったものだ。打者からすると単打には約0.4、二塁打なら約0.8、三塁打なら約1.1点の価値がある。一方、アウトになればマイナスとなり、三振なら0.2~0.3、併殺打なら0.8点程度の損失だ。これを守備の視点から見ると、たとえば外野手が抜ければ二塁打確実のライナーをダイビングキャッチすれば約0.8点を防いだことになる。逆に内野手が簡単な当たりを取り損ねて単打にすれば約0.4点、併殺確実のゴロで1死も取れなければ約0.8点を与えてしまったことになる。すべての打球の難易度とそれに対するプレーの価値を合算し、守備者として総合評価したのがUZRと思ってもらえばいい。

それでは実際に、この指標を「内野の要」といわれる遊撃手に当てはめてみよう。球団別で2017年を振り返ると断トツのトップは西武だ。なんと遊撃だけで平均より21.5点もの失点を防いでいる。2位のオリックスが10.8点だから別次元といっていい。西武の遊撃は源田壮亮がフル出場したから、このUZRはそのまま源田の守備力を表している。20点の差を生み出せる打者というと、日本ハムの西川遥輝や西武の浅村栄斗ら。源田の守備には中軸クラスの打力と同じ価値があるということになる。
■過小評価されている選手も
ところが17年、記者投票によるゴールデングラブ賞を受賞したのはソフトバンクの今宮健太だった。確かに今宮は優秀な遊撃手だ。ただUZRは5.2点。失点を防ぐという点では源田の方が優れていた。打撃タイトルなどと違い、ゴールデングラブは何を重視するのかがいまひとつわからず、イメージや知名度先行の感も否めない。王者ソフトバンクの中心選手で日本代表にも選ばれる今宮とドラフト3位の新人では周りの見る目が違うのだ。109試合の出場にとどまりながら11.6のUZRを記録したオリックス・安達了一も地味ゆえに過小評価されている選手のひとり。15年には26.1と昨季の源田をも上回った達人だ。
露出と時間を要する「名手」の称号を得るにはタイムラグがつきものだ。UZRの推移を追うと「名手」たちがそう呼ばれるころには、絶頂期を過ぎている傾向がはっきりしている。当代きっての広島・菊池涼介は名手が集まる二塁手の中にあっても傑出した存在で、16年には17.3のUZRを記録した。しかし昨季はケガの影響で3.2。「忍者」復活に向けては、年齢や故障にあらがい、運動量を取り戻すことが欠かせない。
遊撃に戻ると、日本シリーズまで進んだDeNAのUZRはマイナス17だった。倉本寿彦の守備範囲には難があるといわざるを得ず、監督アレックス・ラミレスが阪神から加入した大和を遊撃で使いたがっているのはうなずける。二塁や中堅もこなす大和だが、昨季の遊撃でのUZRを見ると、431回3分の1と限られた出場機会で8.2を記録した。同じペースでフル出場すれば約23となり、昨季から40点の改善となる。DeNAは的を射た補強をしたわけだ。

2年連続でゴールデングラブに選ばれている巨人の坂本勇人にも触れておきたい。昨季はセ・リーグトップのUZR10.6を記録したが、15年には32.3というとてつもない数字を出している。坂本の価値がさらに高いのは、バットでも多大な貢献をしていることだ。
■捕手・阿部の不在が影響も
ほとんどのチームが遊撃手は守備を重視し、打撃への期待は二の次となる。こうしたライバルたちに坂本は打撃でも数十点の差をつける。つまり彼がひとりいるだけで、60点以上の差が生まれる。同じことは捕手時代の阿部慎之助にも当てはまっていた。強肩・好守に加えて捕手では異色の攻撃力。ひとりで70~80点の差異を生み出していた。こんな2人がいれば、あとは平均レベルの選手だけでも十分に優勝争いができる。巨人が優勝から遠ざかっているのは捕手・阿部の不在と無関係ではない。
二遊間はゴロ打球の6割に関与する。捕手を含め、守り優先のこうしたポジションに人並み以上の好守と強打を兼ね備えた選手が入れば、彼らが生み出す差は打撃優位の選手がそろう一塁や三塁以上に大きくなる。野村克也に古田敦也、城島健司と強打の名捕手がいるチームは概して強い。センターラインがそろうとチーム力が一気に上がる理由はこのあたりにある。(敬称略)