ブロードコム買収断念 「勝者」クアルコムに残る通商リスクの火種

2018/3/14 22:00
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世界の注目を集めた巨額買収劇はトランプ政権の介入であっけない終幕を迎えた。14日、シンガポールの通信用半導体大手ブロードコムは米クアルコムの買収を断念すると発表した。ただトランプ大統領が掲げる「安全保障上の理由」の根拠は不透明。クアルコムにとっては米中通商摩擦が新たなリスクとなる可能性もあり、決して「勝利」とは言い切れない。

「結果には失望しているが命令には従う」。ブロードコムはクアルコムに対する買収提案を取り下げるとの声明でも悔しさをにじませた。クアルコムの株主総会に向けて独自の取締役候補を立てて臨んでいた委任状争奪戦からも身をひく。

スマートフォン(スマホ)向け半導体など通信分野に強いクアルコムが買収され、次世代通信技術「5G」分野などで米企業の存在感が薄まる。トランプ政権はそれを国家レベルの脅威と考えた。

ブロードコムは中国の華為技術(ファーウェイ)と密接な関係があるとされる。アリババ集団や騰訊控股(テンセント)など、IT(情報技術)分野で急成長する中国勢への警戒感も見え隠れする。クアルコムや買収を警戒していたインテルによるロビー活動の成果もあるといわれる。

クアルコムへの買収提案とは直接関係ないが、米メディアは1月、米連邦取引委員会(FTC)がブロードコムを独占禁止法で調査していたと報じた。さらに3月に入り、対米外国投資委員会(CFIUS)がクアルコムの株主総会の延期を要請、そして大統領の買収停止命令という最終手段に出た。

いずれにしても安全保障面での具体的な根拠は乏しく、「経済的な脅威」と見なした中国が何らかのかたちで対抗措置を打ち出してもおかしくない。中国のスマホメーカーを顧客に持つクアルコムにとっては、自らを守った安全保障という「盾」が跳ね返ってくるリスクもある。

一方、4カ月に渡る攻防で、ブロードコムが13兆円もの資金を集められることが明らかになった。宙に浮いた資金が新たな再編の火種となるのは必至だ。

ブロードコムのホック・タン最高経営責任者(CEO)はクアルコム買収交渉の過程で、最大1000億ドル(約10兆6000億円)を米国や日本の銀行団から調達する約束を取り付けた。巨額の買収資金が他の半導体メーカーに向かうことは想像に難くない。

ブロードコムは4月までに米国に本社を移転する計画は変えないとも表明。名実ともに「米国企業」になってから誰に白羽の矢を立てるか。既に市場では米半導体大手ザイリンクスなどが取り沙汰されている。

ブロードコムはタン氏のもとでM&Aと大胆なリストラを重ねることで企業価値を高めてきた。14年に同業のLSIコーポレーション、16年に現在の社名の由来となる旧ブロードコムを買収。株価はこの5年で約8倍になった。

買収した企業の買収額と純資産の差を示す「のれん」は約2兆8000億円に達しており、成長維持にはM&Aにより成長分野を取り込み続ける必要がある。

1日には米半導体中堅のマイクロチップ・テクノロジーが同業の米マイクロセミを83億ドルで買収すると発表するなど、半導体業界には再編の波が押し寄せている。

IT産業でも過去最大級だった買収劇の破談。真の勝者が決まるまでには時間がかかりそうだ。

(オースティン=佐藤浩実、石塚史人)

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