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市場より割安TOB相次ぐ 対価減少、株主に不満も

企業によるTOB(株式公開買い付け)で、株式を市場価格よりも割安で取得する例が相次いでいる。2月には三菱商事などが実施を表明した。売り手と買い手が相対で決めた価格で取引し、事業再編や株式の持ち合い解消をスムーズに進める狙いがある。一方、市場での売却よりも対価は少なくなる。説明責任や、その後の企業価値の向上が強く求められそうだ。

通常のTOBは取得する企業の株価に一定のプレミアムを上乗せして買い付けるのが一般的。これに対し、「ディスカウントTOB」は市場の株価よりも低い価格で買い付ける。一般株主がほとんど応じず、特定の売り手から決まった量を買い付けやすくなるためだ。

三菱商事は2月20日、三菱自動車株のTOBを発表。買い付け価格は1株749円と20日終値を10%下回る水準だ。三菱重工業など三菱グループの保有分を取得する。グループ内の出資関係の整理や自動車事業の拡大が狙いで、「グループ企業以外の応募を目的としていない」(三菱商事)。

コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスも21日、リコーなどが保有する9.21%の自社株の取得を発表。市場価格より13%安い価格で買い付ける。リコーは総額560億円程度を調達し、構造改革の費用などに充てるもようだ。

M&A(合併・買収)仲介のストライクによると、2016~17年の国内ディスカウントTOBはいずれも9件(自社株買いを除く)。5件前後の14~15年よりも多い。確実に成立しやすいため、スピード感を重視する企業が事業再編や株式の持ち合い解消に活用しているもようだ。大手証券の担当者は「市場で大量の株式を売却すると株価が下がりやすくなり、他の株主に迷惑をかける」と語る。

一方、歓迎の声ばかりでない。ある国内運用会社の担当者はリコーのコカBJH株放出について、「構造改革で1円でも多く資金が必要なはず。なぜ割引価格で売る必要があるのか」と疑問を呈する。三菱自株を放出する三菱重工株を保有する運用会社も「本来、受け取るべき利益を毀損している」と話す。ディスカウントTOBは価格の妥当性などに不透明な余地が残る取引のためだ。

05年には株主代表訴訟も発生。フジテレビジョンによるニッポン放送株のTOBで、買い付け価格が市場価格を下回っていながらTOBに応じた東京電力に対し、個人株主が訴訟を起こした。「著しく不合理な選択だったとはいえない」と東京高裁で棄却されたが、安易に選択した場合はリスクもはらむ。

日本ではTOBの価格設定に制限はないが、英国では割安価格は禁止されているほか、米国でも合理性の観点などから難しい。TOBに詳しい清原健弁護士は、「本来、市場価格で売買できない取引は、合理的・効率的な市場の形成につながらない」と指摘。そのうえで「代替手法も検討したうえで最終的にディスカウントTOBを選んだ、という合理性を証明できるかが重要だ」と語る。

三菱自株を割安に取得できるはずの三菱商事も、TOB発表の翌21日の株価は一時3%下落。相乗効果への疑念などが高まったもようだ。割安なTOBが成長にどうつながるのか。売り手も買い手も説明責任を果たしたうえで、企業価値を高める実行力が問われる。(押野真也)

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