2018年9月19日(水)

働き方、一律規制に限界も 医療の現場から

生産性考
2018/5/4 20:00
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 政府が進める長時間労働解消の法的な根拠となる労働基準法。無理な残業を減らすことは職場の生産性向上のために欠かせない。ただ、同法は戦後間もなく、主に工場や炭鉱での作業を想定して制定されており、一律に当てはめることが難しい職場や職種も多くなっている。

診療体制の維持しながら医師の働き方改革を進めるのは難しい課題だ

診療体制の維持しながら医師の働き方改革を進めるのは難しい課題だ

 例えば医療の現場――。「ほぼ24時間働きっぱなしの日が何日も続くことなんてざらにある」。北関東の医療機関に勤める30代の救急医は打ち明ける。周辺の病院と比べて設備が充実しており、遠方からの患者も多く、過去には2日しか休めない月もあったという。

 医師の数が足りず休日を返上したり、勤務時間を大幅に超えたりすることは日常茶飯事。勤務記録上の月の残業時間は80時間以下だが「その倍以上は院内にいる」。

 勤務医の労働組合「全国医師ユニオン」が2017年7~9月に大学病院の医師を対象にした調査では、労働時間がタイムカードなどで客観的に管理されていると答えたのはわずか5.5%。「労基法が守られていると思うか」という質問では59.4%が「守られていない」と回答した。

 医師の数の不足と地域ごとの「偏在」がこうした実態の背景にある。当直や急患への対応時間を含めれば、労基法で定められた1日8時間の法定労働時間と労使協定で取り決めた時間外労働の合計を軽く超えてしまうケースも少なくない。

 医師には正当な理由なく診療を拒めない「応召義務」があり、少人数で診療にあたる病院では医師らの負担は必然的に大きくなる。労基法の順守と、診療体制の維持の両立が難しい現実が今の医療現場にはある。雇用主である病院側が労基署の是正勧告を受けないようにするため、勤務時間を「調整」すれば、違法残業の温床にもなりかねない。

 医師や介護職などでつくる日本医療労働組合連合会の森田進書記長は「過労死してでも患者を診ろというのはナンセンスだが、時間外労働の規制は、まず勤務医の人手不足を解消しないと実現は難しい」と指摘。先述の30代救命医は「勤務医に労基法をそのまま適用することに無理がある。医師独自の法的基準が必要。応召義務も見直してほしい」と話す。

 厚生労働省は医師の働き方改革に向けた検討を始めている。17年3月にまとめた働き方改革実行計画では、医師は罰則付きの時間外労働規制の対象とするが、患者への対応などを踏まえて改正労基法施行から5年は適用を見送るとした。今年2月には「緊急的な取り組み」として医師の正確な在院時間の把握や、医師の業務の一部を看護師が担う新たな役割分担の採用などを求めた。

 労基法による労務管理は労働時間に時間あたりの単価を掛け合わせた賃金を支払うのが鉄則。残業時間の上限は同法36条に基づいた労使間の協定で決められる。労働者を過大な負担から守る重要な制度だが、専門性が高い職種や勤務形態が不規則な人にとっては、柔軟な働き方ができなくなる要因にもなりかねない。

 医師の長時間労働対策でも専門家の意見は割れる。労働法制に詳しい神戸大の大内伸哉教授は「医師もほかの職種と同じように時間外労働の規制対象とし、労働に見合ったしかるべき対価が支払われなければならない。医療サービスの供給体制にかかるコストは医師ではなく、国民が負担すべきだ」と強調する。

 一方で、17年8月に開催された厚労省の検討会では、参加した医師から「質の高い医療を確保するためには自己研さんや研究活動、学会活動なども重要になる。画一的な労働時間の制限は設けるべきではない」とする意見も示された。

 中津川市民病院(岐阜県)の間渕則文・病院前救急診療科部長は「24時間常にスタンバイ状態になったりするなど、医師の働き方はかなり特殊」と指摘。「例えば、勤務医も自由業とし、労働請負制で年俸制にして年単位の契約で働くという形も考えられる」と提言している。

(社会部 石原潤)

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