2018年9月24日(月)

合言葉は「社会のために」米スタートアップ祭典SXSW

スタートアップ
2018/3/14 6:30
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 米テキサス州オースティンで開催中のテクノロジーとスタートアップ企業の祭典「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」。新進気鋭の起業家が投資家らに自社を売り込む「ピッチイベント」がSXSWの目玉だ。11日(日本時間12日)に決まった受賞者の顔ぶれから、スタートアップのトレンドを探る。

 「Winner is…」。11日夜、オースティン市内のホテルは起業家たちの熱気と歓声に包まれていた。

SXSWでは起業家が投資家らに自社を売り込む「ピッチイベント」が行われた

SXSWでは起業家が投資家らに自社を売り込む「ピッチイベント」が行われた

 SXSW名物の「アクセラレーター」と呼ばれるピッチイベントに参加した約50社から「エンタメ」「決済」といった部門ごとに受賞者が発表されていく。各社の創業者が賞である4000ドルの小切手を受け取ると、駆けつけた同僚たちによる写真撮影がそこかしこで始まった。

 「地域の農業をもっと良くしたいと思った」。「コネクテッドコミュニティー(つながる社会)」部門で受賞した米グラブタブズのロバート・オリバー最高経営責任者(CEO)はそう話す。

グラブタブズはレストランの廃棄食材を、虫を介して家畜の餌にする。

グラブタブズはレストランの廃棄食材を、虫を介して家畜の餌にする。

 グラブタブズはレストランが余らせた食材を回収する。それらをハエの1種の幼虫に食べさせ、幼虫の栄養価が高くなったところで豚や鶏といった家畜の餌にする。顧客は地域の農家だ。

 グラブタブズは2017年にオースティンで設立したばかりで社員はまだ7人。それでもピッチイベントの審査員の評価は高かった。

 評価の理由はレストランの食材廃棄のコストや農家の餌代が抑えられることだ。しかも、外食産業で大量に発生する廃棄食材(フードロス)の削減という社会課題の解決につながる。

AIやVR多い

 ピッチイベントを統括したクリス・バレンタイン氏は「18年は人工知能(AI)、VR/AR(仮想現実・拡張現実)、ブロックチェーンを扱うスタートアップ企業が多かった」と話す。さらに「これらの新しいテクノロジーをソーシャルグッド(社会貢献)に生かそうという視点も目立ってきている」と言う。

 SXSWはもともと音楽や映画の祭典として始まった。今年の受賞企業にもそうした流れをくんだスタートアップ企業があった。

人の声を認識してギターやドラム演奏などの音楽をつくりだす(デモンストレーションをするヴォクレアミュージックの社員)

人の声を認識してギターやドラム演奏などの音楽をつくりだす(デモンストレーションをするヴォクレアミュージックの社員)

 人の息づかいや声を認識してドラムやギターの演奏を作り出すサービスを開発した英ヴォクレアミュージック(ロンドン)や、ARを使ってCG(コンピューターグラフィックス)合成などの映画制作の手間を抑えようとしている米ARウォール(ロサンゼルス)などがある。

 だが、今年のSXSWのピッチでは、ソーシャルグッドを志向するスタートアップの存在感が一段と増している。背景にあるのはIT(情報技術)企業の巨大化にともなうテクノロジーに対する警戒心の高まりだ。

 選挙に影響を与えた不正広告しかり、スマートフォン中毒しかり。SXSWではフェイスブックをはじめとするソーシャルメディアの課題を議論するセッションも数多く開かれた。

 アクセラレーターピッチに参加したのは創業1~2年ほどの企業が多く、こうしたテクノロジーに対する逆風を目の当たりにしている。たくさんもうけるだけではなく、社会を良くするためにテクノロジーを使おうという意識が強まっている。

 例えば「決済&フィンテック」部門で受賞した米フューチャーフュール(ボストン)。多くの学生が卒業後も長期間にわたって学費ローンの返済に苦しんでいるのを知り、より早く簡単に返済できるような仕組みを、雇用主となる企業に提供しようとしている。

 ローレル・テイラーCEOは「私自身もマサチューセッツ工科大学の卒業生。自分の債務は軽かった方だけど、それでもこんなにあるのかと驚いた。他の人たちはどうなのかと思ったのが起業のきっかけだ」と話す。決済&フィンテック部門では、難民が国境を超えて財産を移動させやすくするサービスを開発している、米リーフ(ナッシュビル)も特別賞に選ばれた。

犯罪歴ある人に

 「ソーシャル&カルチャー(社会&文化)」部門で受賞した米アイコン3D(オースティン)は、大型3Dプリンターを用いて家屋をつくるプロジェクトを実践中だ。家づくりにかかる投資を半減させられるとみている。世界に10億人以上いるとされるホームレスにシェルターを提供しやすくなるという。

 近隣の住民同士が子どもを相乗りさせて学校に送り迎えするサービスを開発している米ゴーキッド(ニューヨーク)は「輸送テクノロジー」部門で受賞した。

 相乗りサービスの米ウーバーや米リフトは費用がかさむので使いにくいが、各家庭が別々に送迎すると渋滞が発生して環境にも悪影響を与えてしまう。地域内で相乗りできるようにすれば、そうした問題が解消する可能性がある。

 受賞はしなかったが、犯罪歴がある人への職業紹介基盤を構築しようとしている米70ミリオン(サンフランシスコ)なども関心を呼んでいた。

 リチャード・ブロンソンCEOは「自分にも犯罪歴があり、服役後に仕事を見つけるのがものすごく難しくなった」と振り返る。一度の過ちで社会復帰が阻まれる現状を変えようと、起業を決めた。社名の「7000万人」は米国で罪を犯したことがある人の数だ。

 アクセラレーターピッチは、07年のSXSWで初めて開かれ、17年までに403社が参加した。

 ソフトバンクグループが出資するオンライン金融の米キャベジや米アップルが買収した米Siriも、かつてこのピッチに参加していた。参加企業の合計調達額(買収含む)は46億ドルに達するという。

 ソーシャルグッドに向かう今年の参加者たちはこれから、どんな成長の軌跡をたどるだろうか。

(テキサス州オースティン=佐藤浩実)

[日経産業新聞 2018年3月14日付]

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