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十車十色、スタートアップEVはニーズで割り切り

NextCARに挑む 攻防・電動化(3)

内燃機関の車に比べて必要な部品点数が6割に減ると言われる電気自動車(EV)は、小規模なスタートアップ企業にもチャンスをもたらしている。参入のハードルが下がり、用途や購入者の経済力にちょうど良い性能・価格の車をつくることが可能になる。ユーザー自ら生産を手掛ける例も出始め、大量生産の原点である自動車産業は曲がり角を迎えつつある。

バングラデシュの首都ダッカ。通行人でごった返す道の中央をタクシーが駆け抜ける。最近、同国で普及しはじめている「R6」と呼ぶ三輪のEVだ。これを現地で生産・販売するのは日本のEVスタートアップ企業、テラモーターズ(東京・渋谷)だ。R6は最高時速が40キロメートル。1回の充電の航続距離は120キロメートルだ。

日本より狭い国土に1億6000万人が暮らすバングラデシュでは、小回りが利き、低料金の三輪タクシーが普及している。ただし普通は人力。

R6の価格は日本円にして約20万円と、一般的な人力三輪の6~7倍する。だが、運転手は人力から電動にすることで以前より早く乗客を目的地に運べる。1日の収入が増えるうえ、体力的にも楽だ。

購入者は頭金としてまず約5万円を払い、残りは貧困層向けの融資で知られるグラミン銀行などが提供するローンを組み、働きながら返済する。EV普及では充電インフラが課題になるが、駐車場に備え付けた電源で簡単に充電できるので特別な整備は必要ない。

競合はある。地元の卸業者が中国から輸入する無名の三輪EVで、テラモーターズ製は中国製に比べると1割ほど価格が高い。それでも「バッテリーが故障してもすぐに修理できるよう教育を徹底」(徳重徹社長)して、支持を得ている。

川崎市のEVスタートアップ、FOMMは18年末からタイでEVの生産を始める。水害の多いタイの事情を考え、水に浮く小型EVの実用化を目指す。技術的にはホイールの中にモーターを備える「インホイールモーター」で試作車を作り上げた。「減速機などが不要になり、部品点数が減る」(鶴巻日出夫社長)ため、効率よく組み立てることができる。

ユーザー自ら生産・企画も

FOMMやバングラデシュでのテラモーターズは、年間1万台といった小規模な生産体制だ。1工場で10万や20万台といった規模が当たり前の大手メーカーとは開きがあるが、テラモーターズのバングラデシュ事業は16年春の発売から半年で黒字化したという。

テラモーターズの徳重社長は「EVビジネスで最も大切なのは『顧客価値』だ」と強調する。当たり前のような言葉だが、掘り下げるとこうなる。テラモーターズの顧客層はタクシー運転手。人力からEVにすることで単純に生活収入が増えるというメリットが購入の動機となる。それに見合う価格や性能のEVは受け入れられる。

EVの弱点は電池の性能に起因する航続距離の短さや価格の高さ、充電の煩わしさだ。一方で開発の敷居が低い分、それぞれ使い方に合わせて性能を割り切れば経済的なメリットも出てくる。なかにはユーザー自らが車両の生産や企画に乗り出す例も出てきた。

国際物流大手・ドイツポストは21年をメドに、保有する小包配送車のほぼ全てをEVにする。生産するのは14年に買収したスタートアップ企業のストリートスクーターだ。日本では東京都の豊島区が、独自のデザインをほどこした小型のEV回遊バス約10台を導入する。シンクトゥギャザー(群馬県桐生市)が開発した車両がベースだ。

こうした流れは今後も加速する可能性がある。"和製テスラ"とも呼ばれるGLM(京都市)は高級スポーツEV「トミーカイラZZ」を販売する一方、「黒子」の顔も持つ。

開発した車台(プラットホーム)を外販するのだ。顧客はボディーなどのデザインに集中でき、「開発コストや期間を大幅に圧縮できる」と小間裕康社長は強調する。メーカーにEVなど新エネルギー車(NEV)の生産を義務付ける「NEV規制」が施行される中国が主なターゲットだ。7日には19年に予定していた新型車の投入は先送りし、開発者をプラットホーム開発に専念させる方針も打ち出した。

大衆車、EVのメリット少なく

大きな需要や高価格はのぞみにくく、これまで自動車産業が対応していなかったような用途ごとに合わせた実用車の市場が、EVを基盤にスタートアップの手で切り開かれつつある。その一方で、高級車ではEVの旗手、米テスラがいち早く顧客をひき付けた。

1000万円前後の「モデルS」などは、そのデザイン性の高さで評価を獲得。400万円程度とやや身近な価格になった「モデル3」は、17年末としていた「1週間あたり5千台」の量産時期を18年6月に遅らせた。それでも多くの予約客が待ち望んでいることは、それだけの人が価値を認めたという証拠だ。

それでは自動車産業のピラミッドの「真ん中」に位置するボリュームゾーン、マイカーで使われる小型車などの大衆車で、EVの優位性はあるのだろうか。

「規制があっても、結局は顧客に喜んでもらえる車でないと成り立たない」。一橋大学イノベーション研究センターの延岡健太郎センター長はボリュームゾーンでのEVの難しさを指摘する。

今のところ日本でEVが広く消費者の支持を得ているとは言いがたい。パーク24が16年末に国内8860人を対象に実施した調査では、ガソリン車以外の車の購入を検討したことがあるかという問いに対し、「ない」と答えた人は69%。まだ選択肢が少ないとはいえEVを検討した人は8%にとどまり、ディーゼル車の17%よりも少なかった。

ただ受け入れられる素地が育っていなくても、大手自動車メーカーは環境規制に対応するため、EVを手掛けざるを得ない。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)はEVや自動運転などの実用化のために必要な投資が増える一方、自動車メーカーの利益率は下がっていくという調査結果をまとめた。

EVに道がないわけではない。「カーシェアリングでEVを使うようにするなど従来と違う価値を提供する必要がある」とデロイトトーマツコンサルティングの尾山耕一シニアマネジャーは指摘する。自家用車と異なり稼働時間が長いカーシェアではランニングコストが安いEVに軍配が上がるという。

電子制御するため、自動運転技術とも相性がいい。日産自動車ディー・エヌ・エーと組んで横浜市で始めた実験でもEVの「リーフ」が使われている。

垂直統合と大量生産が当たり前だった自動車産業。EVでは顧客にどんな利便性や満足感を提供できるかというメーカーの原点が問われる。

(企業報道部 杜師康佑)

[日経産業新聞 2018年3月12日付]

NextCARに挑む 攻防・電動化
(1)EV時代はまだ来ない (3.13公開)
(2)電池競争 新星は臆さない (3.14公開)
(3)ニーズで割り切り、EVスタートアップ (3.15公開)
(4)「EVシフト」操る中国 (3.16公開)

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