2018年11月15日(木)

ループとトンネル 輸送手段を変えろ
マスクが壊す8つの産業(中)

CBインサイツ
2018/3/12 1:58
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起業家イーロン・マスク氏がどのように世界を変えようとしているのか。マスク氏とその会社が活動する8つの業界について掘り下げ、どのように変革に取り組んでいるかについて考える。(つづき)

■輸送

マスク氏は12年にハイパーループ構想について初めて言及した。13年にはスペースXとテスラのチームと共同でこのアイデアの事業化可能性を検証した。このポッド型カプセルは30マイルの距離をわずか2.5分で走行でき、現在は6時間かかるロサンゼルス-サンフランシスコ間の移動時間を30分に短縮する。しかも、片道約20ドルの料金で採算がとれると試算した。

加圧されたポッドと減圧されたトンネルを組み合わせることで、想像もつかなかった速さの交通手段が利用できるようになる。ハイパーループの平均時速は約600マイルで、どの交通手段よりも速い。海の上を除けば、ハイパーループは飛行機(平均時速575マイル)を上回る速度で旅客を安く運べる。これにより米国人の暮らし方や住む場所は変わり、住宅と商業不動産業界は激変する。貨物輸送業界にも大改革をもたらすだろう。

もっとも、高速鉄道プロジェクトはこの数十年、建設用地や建設費用の問題から計画断念に追い込まれている。トンネル掘削技術もハイパーループ構想を実現できる水準に至っていない。

■インフラ/トンネル掘削

マスク氏はある日、ロサンゼルス郊外で渋滞に巻き込まれている際、この問題に真正面から取り組むとツイートした。こうしてトンネル掘削会社「ボーリング・カンパニー」が誕生した。これはロケットや自動運転車ほどカッコよくはないが、インフラは極めて重要で、米国が世界をリードしているとはいえない分野だ。

ボーリング社は3つのプロジェクトを進めている。1つ目はカリフォルニア州ホーソーンにあるスペースXの試験トンネルの掘削で、研究開発が目的だ。

トンネル掘削における問題はコストの高さだ。現状では、掘削コストは1マイルあたり約10億ドルに上る。掘削事業が成立するには、これを1億ドルに下げる必要があるとマスク氏は考えている。コストを下げるには、トンネルの大きさと掘削速度に対処しなくてはならない。掘削コストはトンネルの断面積に比例しており、断面積が大きくなるほど、コストも高くなる。このため、ボーリング社は当初は直径14フィートのトンネルを建設する。これは現在の道路トンネルの直径の半分で、断面積では4分の1になる。直径を小さくすることにより、数百万ドルを節約できる。

ボーリング社が従来よりも小さいトンネルを掘ることができる理由は、その利用方法にある。同社が検討している第2のプロジェクトは、ロサンゼルスの非常識な交通渋滞を軽減する都心部の(地下)トンネルだ。これは自動車用トンネルだが、自動車は走行するのではなく、時速125マイルで動く電気そりのようなもので運ばれる。これによりロサンゼルス北部のウエストウッドからロサンゼルス国際航空までの所要時間は30~45分から、わずか6分に短縮される。トンネルが小さくて済むのは、EV車専用のトンネルだからだ。エンジン車は入れないため、排ガスの換気スペースは要らず、大型車や緊急車両のためのスペースも必要ない。

ボーリング社はさらに、トンネル掘削コストが高いもう一つの理由である掘削速度の改善にも取り組んでいる。

3つ目のプロジェクトは、ワシントンDC-ニューヨーク間をトンネルでつなぐという奇想天外なアイデアだ。高速鉄道は人口密集地域では速度を抑えなくてはならないが、トンネルを通せば常時高速で走れるようになる。ボーリング社のトンネルとハイパーループを組み合わせれば、両都市の移動時間はわずか29分に短縮される。

■航空宇宙

スペースXは17年12月15日、ロケット「ファルコン9」を国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げた。これはスペースXが米航空宇宙局(NASA)と契約している13回目の商業補給ミッションで、ファルコン9の45回目の打ち上げだった。

ファルコン9の打ち上げは17年だけで18回実施され、海上でのロケット回収も今では当たり前になった。もっとも、今回のミッションは困難だった。再利用した部品だけで構成したロケットを使うというスペースXの中心的な特徴と、火星への移住計画手段が実証されたのは今回が初めてだった。

マスク氏にとって、これが宇宙旅行を実現させる唯一の方法だ。ロケットが使い捨てだと、地球に戻れないからだ。ロケットが飛行機のように何度も再利用できるようになれば、宇宙旅行は次世代の空の旅になる。

そこで重要になるのが輸送単価だ。スペースXのファルコンの輸送単価は既に従来の3分の1~5分の1に下がっているが、これがマスク氏の最終目標ではない。100万人の火星移住を実現するには、「輸送単価を500万パーセント改善」しなくてはならない。

人類は地球にしか住めないままでは、確実に絶滅に向かうとマスク氏は考えている。火星は快適とはいえないが、1日の長さや気温は地球と似ており、地表の下には水があるなど、近隣の惑星の中では最善の選択肢だ。大気の成分は異なるが、だからこそボーリング・カンパニーと同社のトンネルが必要になる。スペースXは火星旅行に使う超大型ロケットの開発も進めている。

一方、ロケットの輸送コストが下がり始めると、惑星間の移動だけでなく、ロケットを使った主要都市間の移動も現実味を帯びてくる。スペースXは超大型ロケットを使って火星に行くだけでなく、地球上の主要都市を通常の航空機よりも速く移動する事業を視野に入れている。マスク氏は、どの都市にも1時間以内で行けるようになると豪語している。

(つづく)

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