2018年9月20日(木)

太陽光・EV・通信 既存システムを過去の遺物に
マスクが壊す8つの産業(上)

CBインサイツ
スタートアップ
2018/3/12 2:00
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CBINSIGHTS

 イーロン・マスク氏は私たちのなじみの起業家よりも壮大な宇宙的規模で物事を考え、実行に移す。電気自動車、ロケット打ち上げ――マスク氏の主要プロジェクトはほとんどの主要産業と想像できる限りの地球上の問題を網羅しており、こうした分野やセクターを根本的に変えることを思い描いている。

 CBインサイツは今回のリポートで、マスク氏を別の角度から検証することにした。マスク氏と彼の会社の約束や触れ込みを評価するのではなく、その業界に根本的な変化をもたらしているかどうかを数字や確かな証拠、具体例でチェックしたいと考えた。

 そのために、マスク氏とその会社が活動する8つの業界について掘り下げ、どのように変革に取り組んでいるかについて考える。

(1)エネルギー ある電力業界団体によると、テスラと米太陽光パネル設置大手ソーラーシティが手を組んだことで「米国の電力会社は廃れ、電力事業モデルに壊滅的な打撃が及ぶ」可能性がある。
(2)自動車 マスク氏はテスラ車を手ごろな価格にするだけでなく、オーナーに利益をもたらすと考えている。次世代の人工知能(AI)と自動運転技術を通じてこれを実現する。
(3)通信 ほとんど知られていないが、マスク氏の宇宙空間での取り組みはインターネット接続に革命をもたらし、現在ネットにアクセスできない40億人強の人々に高速のネット環境を安く提供できるようになる可能性がある。
(4)輸送 マスク氏が提唱する「コンコルドとエアホッケー台をかけあわせたような(車、飛行機、鉄道、船舶に次ぐ)第5の交通手段」である超高速輸送システム「ハイパーループ」が、米ワシントンDC-ニューヨーク間の移動時間をどうやって30分に短縮するのかについて掘り下げる。
(5)インフラ/トンネル掘削 マスク氏のトンネル掘削会社ボーリング・カンパニーが、高コストで知られるトンネル掘削業界でいかにコスト削減に取り組んでいるかに注目する。現状では、トンネルを1マイル掘り進めるのに10億ドル、直径を1インチ広げるごとにさらに数百万ドルかかる。
(6)航空宇宙 ロケット打ち上げ費用を現在の数分の1に引き下げ、火星への「高速道路」を築くスペースXの構想について調べる。ロケット技術を活用し、「ロケット」によるロンドン-香港間の価格を通常の航空運賃と同程度にする取り組みにも注目する。
(7)AI AI開発競争は第3次世界大戦の「最大の原因になりかねない」と信じてやまないマスク氏が、より優れたAIの開発に多くの時間を投じている理由について探る。
(8)ヘルスケア 米ニューラリンクが未来の人間をつくり出すために開発を進めている、処理能力が高く侵襲性が低い「BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)」について掘り下げる。

 マスク氏とその事業の資金や発明、創意あふれる構想が、こうした重要な業界にどんな変革をもたらすかを読み解いてほしい。

■エネルギー

 化石燃料への依存からの脱却と太陽エネルギーの活用は、マスク氏の10年以上に及ぶ優先課題の一つだ。ソーラーシティは2000年代始め、「太陽光ゴールドラッシュ」の最前線に立っていた。家庭用太陽光発電設備の米最大手に成長したが、経営難に陥り、16年にマスク氏が経営する別の会社であるテスラに20億ドルで買収された。この買収には異論もあったが、テスラがソーラーシティの事業を引き継いだことで、太陽光発電の有用性に対する説得力が高まった。

 マスク氏がテスラによるソーラーシティの買収を提案した16年2月、テスラは自社のEVを自宅や路上で充電できるようにする技術の開発に取り組んでいた。家庭用蓄電池「パワーウォール」は住宅に設置され、別の事業者によって太陽光発電装置に接続される手はずだった。買収が承認されたことで、ソーラーシティの事業はテスラの屋根一体型太陽光発電システム「ソーラールーフ」部門に入り、テスラは蓄電池だけでなく、家庭用太陽光発電装置を総合的に提供できるようになった。

例えば、カリフォルニア州の平屋の一戸建てにソーラールーフを設置すると、30年間で推定4万1800ドルを節約できる。これは州・地方税控除などを除いた額であり、ソーラールーフを設置していると住宅の資産価値も上がるため、消費者の収支は多くの場合黒字になる。エネルギーをほぼ自給自足できるようなシステムを取り付ければ、電力会社は不要になるだろう。

 ソーラールーフの初回の予約受付は17年5月に始まった。予約はすぐに「18年半ばまで」いっぱいになり、テスラは17年の夏に設置を開始すると発表した。だが生産は大幅に遅れており、18年に一般の顧客への設置が始まる見通しだ。

■自動車

 テスラの初の量産EVセダン「モデル3」にまつわるトラブルは、同社がこれまでに何度もくぐり抜けてきた窮地の一つにすぎない。03年に設立されたテスラは、マスク氏にとって今なお最も野心的なプロジェクトの一つだ。

 テスラは「自動車メーカー」を過去の遺物にしようと取り組んでいる自動車メーカーだ。同社が描く未来はガソリン車や非EV車はもちろん、人間が車を運転することさえも時代遅れに思わせる。大半の人はテスラ車のタクシーで短距離を移動し、自動運転車が目的地に連れて行ってくれるまでの間、眠ったり、話したり、遊んだりできる。車の所有者は自分が乗らない時には自動運転タクシーとして貸し出し、必要になったらボタン一つで呼び戻せる。

 だが、同社は生産遅延の問題に悩まされており、多くの投資家は懸念を募らせている。

 EVが大衆車になることに賭けたのは正解だった。英国とフランスは40年からディーゼル車とガソリン車の販売を禁止する法案を可決。中国は25年までに5台に1台を代替エネルギー車にする。米ゼネラル・モーターズ(GM)は23年までに20車種のEVを展開し、スウェーデンのボルボ・カーは19年までにガソリン車を廃止する。

EVを活用する経済的なインセンティブは既に明白だ。米労働省によると、米国人は現在ガソリン代などの「自動車燃料費」に年間約2000ドルを支払っている。運送会社のガソリン代は年間20万ドルに上る。

 さらに、テスラはAIの活用にも取り組んでいる。同社は16年、自動運転プログラム「オートパイロット」を全車に搭載すると発表した。カメラ8台、超音波センサー12個、前面レーダー、コンピューターを内蔵し、数百万時間に及ぶ他のテスラ車の実際の走行データと比較し、そこから学習する。オートパイロット機能は既にテスラ車に実装されているが、自動運転モードでも運転手は“まだ”眠ることはできない。マスク氏は19年ごろに(完全)自動運転の準備が整うとの見通しを示している。

 「モデル3」は16年3月、発表から48時間以内に25万台近い予約が殺到した。潜在的な売上高は100億ドル相当に達したが、生産の遅れに悩まされている。17年11月には生産台数が週間5000台を達成しているはずだったが、この目標達成は18年3月に先送りされた。

■通信

 マスク氏と彼の会社のプロジェクトは革新的だとされるが、実際には未熟なテクノロジーのせいで失敗した過去のアイデアを見つけだし、世界屈指のエンジニアにより攻勢をかけているといえる。これはまさにマスク氏とスペースXが衛星インターネット業界でとっている戦略だ。

 マスク氏は15年、衛星から放つインターネット接続サービスで世界を覆う構想を初めて公の場で明らかにした。スペースXは16年11月、米連邦通信委員会(FCC)に対し、6年間で計1万1000基余りのブロードバンド衛星を打ち上げ、「全世界に常時安定したブロードバンドサービスを提供する」事業を申請した。20年代半ばには、この衛星を使ったネット接続サービス「スターリンク」が世界最大の通信プロバイダーになる可能性がある。

 スペースXはFCCへの申請から数カ月後、再利用ロケットの打ち上げに初めて成功した。ボーイングやロッキードの衛星1基の打ち上げコストは4億2000万ドルだが、スペースXは既にこれを8500万~9500万ドルに下げている。さらに100万ドル程度に引き下げれば、4000基を超えるインターネット衛星を簡単に打ち上げられるようになる。こうした衛星が現在ネットに接続できない地域を含む地球全体を覆い、通信ラグの少ない大容量通信を提供する。

 スペースXの初の試験衛星打ち上げは18年初めに予定されており、19年には実際の衛星打ち上げが始まる。同社が打ち上げコストを引き下げ、衛星をさらに打ち上げれば、「地上のネットワークに壊滅的な打撃を与える」可能性はますます高まる。

(つづく)

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