遺伝子治療に春が来た
(WAVE)成田宏紀氏

2018/3/8 6:30
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バイオテクノロジーの進化はもはや何人にも止められないものになりつつある。本稿では、忙しい読者諸氏も「1社に1人、バイオ通」になることを目指して最先端バイオテクノロジーを紹介していきたい。

2000年エヌ・アイ・エフベンチャーズ(現・大和企業投資)に入社し、11年投資第一部副部長兼VC投資第四課長。14年5月、DCIパートナーズ社長就任。

この地球上に存在する生きとし生けるものは、例外なく遺伝子と呼ばれる生命の設計図から作られている。ところが、この設計図、必ずしも完全ではない。

誰しも遺伝子に不完全な部分はあるのだが、重要な生命現象を担う遺伝子の働きが弱いと、軽いものでも生涯治療が必要な疾患となる。重いものだと、従来の医薬品では打つ手がない疾患もあり、幼い頃からベッドに横たわったまま、なすすべがなく、患者さんのご両親、治療にあたる医師が途方にくれるという状況が起こり得る。

そんな状況を変える医療がある。「遺伝子治療」である。

発想自体は単純で、機能しない遺伝子があるなら、機能する遺伝子を外部から補充しようというものである。一度の治療で根治する可能性もある。

私が初めて、遺伝子治療に出合ったのは、20世紀の終わりであった。新進気鋭の頭脳たちが、既に治療法として道筋をつけ、開発を続けていた。新たな医療のフロンティアに業界は沸いていた。新しい時代が幕を開けるのだと、私も信じていた。

しかし、ほどなく、事故が起きた。遺伝子治療を受けた18歳の青年が、治療が原因で死亡したのである。別の患者さんでも、治療が原因で白血病を発症した。安全性の課題が浮き彫りとなる形となり、遺伝子治療の道は閉ざされることとなった。

それでは、遺伝子治療が開こうとしていた未来はどうなったのか。このまま終わってしまったのか。

既に読者はお気づきかもしれない。過去の技術を本稿で紹介するはずがないと。現在遺伝子治療は、世界で2500以上もの臨床試験が進められており、抗体医薬の試験数以上である。地道に10年以上の年月をかけて、安全性の改善を図り、表舞台に戻って来たのである。

現在進んでいる臨床試験の中にはがん治療もある。発がんの仕組みは複雑であり、がんを抑制する遺伝子をはじめ複数の遺伝子の異常でがん化することが知られている。そこで、がんを抑制する遺伝子を応用した従来とは全く異なる治療法に期待が高まっている。

がんを抑制する遺伝子は20種類以上知られているが、治療に応用して効果がある遺伝子は数種類しか報告されていない。そのうちの一つは日本発である。この遺伝子を用いて、遺伝子治療を試みる企業が岡山県にある。

岡山大学発ベンチャーの桃太郎源(岡山市)である。遺伝子治療の長い冬の時代も研究を続け、独自の治療法を確立してきた企業であり、現在、がん遺伝子治療の臨床試験を進めている。

ところで、遺伝子治療の技術の延長線上に遺伝子を自在に書き換える、つまり設計図を書き換えるという医療がありえる。ヒトに適用するには倫理的な問題を解決しなければならないが、技術的な問題は単に時間の問題かもしれない。

人類はいま、究極の医療の入り口に立っているのかもしれない。

[日経産業新聞 2018年3月8日付]

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