静ガス、能力向上へ部署間交流「コーチング」

静岡ガスが対話を通して自らの目標を明確にし、主体的に行動する人材を育成する「コーチング」の手法を全社的に導入した。社員一人ひとりが異なる部署の社員らと、仕事への向き合い方や仕事以外も含めた目標などを語り合い、実現に向けた手順を共に考える。都市ガス以外への多角化もにらみ、社員の能力を引き出す仕掛けの一つとする考えだ。
人事部の鈴木幸祐さん(40)は17年11月から「社内コーチ」を務める。コーチされる側の「ステークホルダー」5人を指名し、約2週間おきに各10回、1対1で20~30分の話し合いの場を持つ。鈴木さんは年上から新入社員まで、営業やシステム、ガス導管の保全など異なる働き方や背景を持つ社員に依頼した。
話し合いは社内コーチがリードする形で進む。例えば仕事の目標ならば「営業で新規獲得50件」でも「お金と出世」でも構わない。人生の夢を語る社員もいる。そのために必要な行動は何かを「上司部下ではない間柄で相手の立場に立って話し合い、マネジメント力の向上や社内交流促進につなげる」(担当の金田裕孝執行役員)のが狙いだ。
この「対話力向上プロジェクト」は17年1月に始まった。まず管理職を中心に105人、第2期は年齢を下げて60人が社内コーチとなった。すでに契約社員を含むグループ約1500人のうち6割超が参加。社内の会議室や空きスペースはいっぱいの日もあり、社員2人組が話し合う風景は日常になりつつある。
「うちの社員は結構真面目。職場の私語もあまりない。アイデアは雑談や自由に意見を伝えることから生まれるのに」。導入を主導した戸野谷宏会長は考える。家族的とされてきた社風だが、事業部制導入で社内に壁ができたようにも感じていた。
同社は16年の電力自由化を機に、家庭の困り事解決を軸とした生活関連サービスの拡充を打ち出した。強みとする各家庭への定期訪問時の会話を通して、隠れたニーズを掘り起こし、新規事業の種を探りたい。大手資本との競合も始まる中、コーチングは社員の考える力やコミュニケーション力向上を競争を勝ち抜くカギと位置付ける。
1年が過ぎ、小さな効果も見え始めた。プロジェクトで「仕事効率化」を目標に掲げた社員は会議改革に着手。発言する人のみ参加、その日に決めるテーマの明確化、時間短縮を打ち出した。社内コーチとステークホルダーにプロジェクト終了後も、部署を越えて気づきを与え合える関係が残るのが理想だという。
契約したコーチング会社による基本プログラムの提供と、社内コーチが対話手法への理解を深める研修を含めると費用は数千万円とみられる。決して小さくなく、費用対効果は測りにくいが、試行錯誤しながら「人への投資」を強化する考えだ。(馬淵洋志)