2018年9月24日(月)

勝ち組ベンチャー、即決力が成長力

コラム(ビジネス)
2018/3/6 6:30
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 ソニーのオーディオ系エンジニアの三原良太(32)の元にベンチャーキャピタル(VC)「WiL」(東京・港)の共同創業者で最高経営責任者(CEO)の伊佐山元からメールが届いたのは「ビジネスコンテスト」の翌日のことだった。

森ビル社長の辻慎吾氏

森ビル社長の辻慎吾氏

 「あなたが提案された『耳をふさがない、周囲の音を聞きながら音楽も聴けるイヤホン』の開発、期待しています。これから具体的にどうやって製品化し売っていくか、フィージビリティースタディー(FS)をスピード感を持ってやって行きましょう」

 2015年6月。三原はソニーシティー大崎(東京・品川)のオフィスで伊佐山に「ながら聴き」ができるイヤホンを提案した。「自分が研究してきたものが製品となり日の目を見るなら。ソニーブランドにはこだわらない」。三原はデータを交え、イヤホンの魅力を必死でプレゼンした。

 成功する時というのはすんなり行く。三原に与えられたプレゼンの時間は1時間だったが、30分も話すと伊佐山は「オッケーです。完成度が高い。うちが投資しますよ」。あっさり決まった。三原は急ピッチで動きだし、1年半後にはスタートアップ企業「ambie」(東京・港)が立ち上がり、「ながら聴き」ができるイヤホン、「サウンドイヤカフ」の販売がスタート、たちまちヒット商品となる。

 伊佐山にすれば「してやったり」。かねがね「日本は米国のシリコンバレーとは違う。日本の場合、ユニークな起業のシーズ(種)は優秀な技術者や研究費が集中する大企業にある」との持論を展開してきた。その予言が的中した。

 VCとして企業を見抜くことを生業(なりわい)とする伊佐山だが、もともとは銀行マンとして企業を見つめる立場にあった。1997年東京大学法学部を卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行すると法人営業を担当、大手企業と渡りあった。

 しかし、2001年からの米シリコンバレーへの留学が伊佐山の人生を変える。留学先はスタンフォード大学だ。

 当時、日本は小泉構造改革の真っ最中。「債務」「設備」「人員」と3つの面で過剰を抱える日本企業の実力が揺らいでいた。韓国のサムスンやLGグループが勃興、日本製の人気が毎年、どんどん落ちていくのを目の当たりにした。悔しかった。「世界での日本経済のポジションが落ちている。これではいけない」

伊佐山元WiL共同創業者最高経営責任者

伊佐山元WiL共同創業者最高経営責任者

 間もなく伊佐山はVCの立場から大企業を変え、日本の経済を活性化させる道への転換を選択する。興銀を辞め、WiLを立ち上げたのは13年末。伊佐山の思いに賛同、大企業を中心に3億ドルを大きく超える資金が集まった。

 森ビルの社長、辻慎吾もその賛同者の1人。「面白そうな人物じゃないか。森ビルと合いそうだ」――。最初、伊佐山たちに会った辻はこう言ったという。その後、森ビルとWiLの距離はどんどん詰まっていく。「出資もしよう、オフィスも貸そう」

 森ビルが持つ愛宕グリーンヒルズ(東京・港)の40階に、WiLが日本拠点を立ち上げたのは17年8月のことだった。その瞬間、様々な分野の新技術を持つ人たちが出入りし始めた。金融機関の人も大企業の人も、高級なスーツで身を固めた人がいればノーネクタイの人もいた。「いつか自分も日本で成長、世界で勝負したい」

 そしてこの40階の切り盛りを任されたのが伊佐山と共同でWiLを創業、現在、ジェネラルパートナーを務める松本真尚(47)だった。朝8時に出社、1日に5~7つのミーティングをこなす。「その瞬間、瞬間でパッパッとプロジェクトをさばく。瞬発力だ」。それはかつてヤフー時代、孫正義と一緒に会い、すさまじい衝撃を受けたあのマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツにだぶっていた。=敬称略

(企業報道部 前野雅弥)

[日経産業新聞 2018年2月26日付]

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