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投手・大谷、メジャーで問われる適応力

スポーツライター 丹羽政善

腕を後ろに組み、中継を行ったNHK、日本メディア、米メディアの順で取材に応じた米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平。少なからず同じことを聞かれるはずだが、丁寧に答えていく。

普段の振る舞いも含めて、23歳が随分大人びて見える。

その1時間半ほど前、大谷は小鳥のさえずりが聞こえるほど静かな球場のマウンドに立っていた。

求められる場面できっちり結果

2日の練習試合で大谷はきっちり結果を出した=共同

3月2日。午前10時から行われたブルワーズとの練習試合(通称Bゲーム)に先発すると、2回2/3を投げて2失点。4安打されたが、きっちり捉えられたのは1本のみ。8個のアウトすべてを三振で奪ってみせた。2月24日のオープン戦初戦では制球を乱したことで球数が増え、予定の2回を投げきれなかった。Bゲームでの登板は再調整あるいは、軌道修正を意味したが、大谷はそこできっちり結果を出したのだ。

もちろん、相手はすべてマイナーリーガー。大谷も「きょうはたまたまストライクを取ってもらったり、空振りを取ったりしましたけれど、相手が変わってどうなるかわからない」と慎重だった。だが、前回はまるで使いものにならなかったスライダーが、本来のキレを取り戻すなど圧巻だった。

適応力――。改めて1戦目と2戦目を振り返ると、大谷のピッチングはその短い言葉に集約される。

まずは米アリゾナの乾燥した気候に対する適応力。アリゾナでドアノブを触るたびに静電気がバチっとくるのは、体質だけでは説明できない。手で髪の毛を触るだけでも、下敷きで頭をこすったようになる。

その乾燥した空気はこれまで、多くの日本人投手を苦しめてきた。

2012年にマリナーズに移籍した岩隈は「右腕の前腕部が張る」と話した。滑らないよう、無意識にボール強く握っているためにそういう症状が出たようだ。今、ダイヤモンドバックスに移籍した平野佳寿、パドレスと契約した牧田和久もボールが滑ると話しているが、遅かれ早かれ右腕に違和感を覚えるのではないか。

利き腕の張りに関しては野手でさえ感じ、長年フロリダでキャンプを行っていた田口壮・オリックス2軍監督がカブスに移籍して初めてアリゾナに来たときも、そんな話をしていた。

滑らないようにという意識がどこかで働けば、必然、リリースの感覚や、そのポイントも変わってくる。大谷がオープン戦の初戦でまるでスライダーを制球できなかったのは、そこに一因があったのではないか。ブルペンで投げているときや、シート打撃に登板している限りでは一球一球、調整をすることができる。しかし、試合になるとそうはいかない。エンゼルスのマイク・ソーシア監督が2回目の先発にBゲームを選んだのは、限りなく実戦に近いが、同時にいろいろ試すことができるという設定が今の大谷には必要と判断したに違いない。

練習試合を投げ終え、ソーシア監督(左下)とタッチをする大谷=共同

実際、大谷は回を追うごとにスライダーを自在に操ってみせた。

「あのスライダーはヤバイな」

翌朝、カブスのクラブハウスにいると、クローザー候補のブランドン・モローから話しかけられた。

「昨日の試合、行ったのか? あのスライダーはヤバイな」

イニング間の調整でも与えられた状況に適応していた。大リーグでは日本のように自軍の攻撃のとき、ダッグアウト前でキャッチボールをすることができない。24日のデビュー戦では二回にメジャー初本塁打を許したが、ストレートの球速はわずかに144キロ。攻撃が長く、日陰に入ると手がかじかむほどの寒さだったこともあってか、大谷の体は冷え切っていた。

その日の試合後、大谷は早速反省を口にしていた。

「日本はイニング間にキャッチボールができるので、そこが違った。攻撃も点を取ってくれて(待ち時間が)長かったので、切り替えというか、体を温めながら、なおかつキャッチボールができない中で、どう2イニング目の先頭を抑えるか、勉強になった」

Bゲームはそこまで寒くなかったが、イニングが終わると捕手らと必要な会話を交わした後、ブルペンへ移動してネットスローを繰り返した。

「きょうはたまたま(ベンチ裏に)ネットがなかったので、ああいう形でやりました」と大谷。「自分たちの球場に行けばネットがあるので、キャッチボールというかネットスローの一環としてやっていこうと思う」

シーズンが始まれば、ほとんど球場のダッグアウト裏に打撃ケージがあるので、場所を見つけることは容易。イニング間の過ごし方についてもメドがついたのではないか。

そのほか、投手がメジャーに適応する上で課題となるのはボールそのものの違い、マウンドの硬さ、傾斜、ブルペンでの球数が制限されていることなどが挙げられる。たとえばブルペンでの調整については、そのほうが向いていると話す日本人選手も少なくない。岩隈はブルペンでの球数を必要とするタイプではなく、メジャーの水が合っていた。

大谷もマウンドの硬さは気にならないようだ。傾斜に関しては「強い」と話し、意識するポイントが見えているようだった。

「投球動作の順序を守れば軽く投げてもそれなりのボールがいく。順序を守るのがすごく大事ですし、練習から取り組むのが大事」

4シーム、不安が見え隠れ

さて、そうして器用な一面を随所に見せる大谷だが、最速で165キロをマークしたこともある4シームファストボール(速球、4シーム)に関しては、不安が見え隠れする。

これまで2試合で6安打を許したが、そのうちの5本が4シームを打たれたもの。先ほど触れたように、本塁打を打たれた球は144キロだったが、あとは150キロ前後の決して遅くない球をヒットにされている。すべてがクリーンヒットというわけではないものの、4シームを狙われた上で捉えられている。

24日の試合(ブルワーズ戦)で、初回に先頭打者として二塁打を放ったジョナサン・ビラーはカウント3-1から4シームに山を張り、打球をセンターのフェンス際まで運んだ。2戦目(同)は初球から積極的にいこうと、真っすぐに狙いを絞っていたケストン・ヒウラに、左中間へ二塁打された。日本ならわかっていてもなかなか芯で仕留められなかった大谷の4シームが、マイナーリーガーにまで痛打されるのである。

試合後、実はビラーが大谷の球筋について、気になることを話していた。

「大谷の4シームは動かない」

実は同じことを、本塁打を打ったキオン・ブロクストンも口にし、こう続けている。

「あの動かない球を打てなければ、俺達はここにいない」

おそらく100マイル(約161キロ)のスピードでも、動かなければ弾き返される。ただ、2試合とも対戦したニック・フランクリンは「カット気味だった」と2戦目の印象について話し、ボールが動いているという印象を持ったようだ。

それが果たして意図されたものなのか、偶然なのか。改めて今後、大谷の適応力が問われるのかもしれない。

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