五嶋龍、NYフィルと日本で初共演 ズヴェーデン指揮

意外や意外、ヴァイオリニストの五嶋龍は生粋のニューヨーカーながら、今までニューヨーク・フィルハーモニック(NYP)と共演したことがなかった! 夏に30歳となる節目の今年、待望の初共演がNYPアジアツアーに同行する形で実現する。指揮は2018/19年のシーズンから音楽監督に就くオランダ人マエストロ、ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン。五嶋龍は名曲中の名曲、メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64」を独奏する。ツアーに臨む意気込みなどを直接、聞いてみた。
――これまでのNYPとのかかわり、印象は。
「僕の最初のヴァイオリンの先生がNYPの元第1ヴァイオリン奏者で昨シーズンまで音楽監督だったアラン・ギルバートさんのお母さん、建部洋子さんでした。一人ひとりの楽員の力量が高く、NYPに在籍すること自体がステータスであるため、全米から楽員が集まります。引退後も地方都市や近隣諸国のオーケストラで働くことが可能です。もちろんニューヨークの都会的雰囲気をふんだんに感じさせる名門なのですが、指揮者によって、音がかなり変わります。あまり尊敬できない指揮者、相性の悪い指揮者へは露骨に抵抗し、あれっと驚くような演奏になることが、かつてはよくありました」
――最近はどうですか。
「ベビーブーマー(日本の団塊世代に相当)が一斉に引退し、世代交代が進みました。理事会や事務局もオーケストラ文化の生き残りをかけて顔ぶれを入れ替え、新しい動きが出ています。背景には『自分たちから何か変えないと、将来はない』との危機感があるようです。特にアランさんの任期中にアウトリーチ(ホールの外へ出向いての啓発・広報活動)や社会貢献への取り組みが本格化、選曲もうんとモダンになりました。次期監督のズヴェーデンさんとオーケストラの相性はよく、さらなる新展開に期待が持てます」

――NYPだけでなく、指揮者とも初共演ですね。ズヴェーデンさんはもともとヴァイオリニストで、アムステルダムのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートマスターも務めました。
「指揮者がヴァイオリニストでもある場合、すごく相性がいいか、とても相性が悪いかの二つに一つです。ズヴェーデンさんとはぜったい、うまくいくと確信しています」
――メンデルスゾーンの協奏曲について、お聞かせください。
「最大の難しさは、誰でも知っていて、非常にわかりやすく、親しみにあふれた作品それ自体にあります。すべてのヴァイオリニストたちが子どものころからメンデルスゾーンやブルッフの協奏曲を手がけているので、初心にかえってのアプローチというのが逆に難しい作品といえます。細部を極端にいじることも、できません。でも姉(同じくヴァイオリニストの五嶋みどり)は『一音一音にチャンスが潜んでいる』といいます。0.1%相当の部分で少し音を大きく、別の0.1%ではリズムを強調……と積み重ねていけばまったく異なる到達点が得られます。もちろん管弦楽にも美しい部分がたくさんあるので、オーケストラとの相乗効果も重要です。その意味からも、NYPとの初共演を心待ちにしています」
1988年ニューヨーク生まれ。2011年、ハーバード大学物理学科卒。7歳のとき札幌市のパシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)でパガニーニの協奏曲を独奏し、正式にデビュー。15~17年にはテレビ朝日系の番組「題名のない音楽会」の司会者を務めた。日本空手協会公認3段。NYフィルとのアジアツアーに出演するのは3月8日=北京(中国国家大劇院)、11日=京都(京都コンサートホール)、14日=東京(サントリーホール)、15日=名古屋(日本特殊陶業市民会館)の4公演。
(聞き手はコンテンツ編集部 池田卓夫)
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