仮想通貨の採掘で本当に利益出るか 厳密に計算すると - 日本経済新聞
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仮想通貨の採掘で本当に利益出るか 厳密に計算すると

VentureBeat

仮想通貨「イーサリアム」のマイニング(採掘)は実際にはどれほど利益を得られるのか。この問いにきちんと答えるために、一から始めてみたい。仮想のマイニングリグ(採掘用パソコン)を構築し、妥当な数値を入力し、イーサリアムの採掘でどれほど稼げるかについて現実的な分析を提供しよう。

イーサリアムの価格は固定する。イーサリアムの上昇で得られる利益を除けば、実際のリターンをハード機器や電気代など採掘用パソコンの運営関連費だけに関連付けられるからだ。

採掘用パソコンの諸条件は下記の表の通りで、2018年1月の数値を使用した(妥当性のある中くらいの数値を使うよう努めた)。

仮想採掘コストの諸条件

今回の採掘用パソコンは、現在流通している最も優れた採掘機器の一部よりも効率的で利益を得やすい。画像処理半導体(GPU)4個を使っており、ハッシュレート(計算速度)は1個あたり40MH/s(メガハッシュ毎秒=メガは100万)だ。ハードの仕様はGPU4個、CPU(中央演算処理装置)1個、マザーボード1基で、消費電力は1000W(ワット)。このパソコンの費用を約3000ドルとする。

電気代は1kWh(キロワット時)あたり10セント程度が妥当だろう。これは米国の小売電気料金の平均単価を下回る。消費電力が1000ワットの場合、採掘用パソコンの運営には1時間あたり10セントはかかるため、1日あたりの電気代は2.40ドルになる。ブロック報酬と採掘難易度も18年1月の数値を基準とする。さらに、パソコン1台での採掘が成り立つのは、グループで採掘する「マイニングプール」に参加する場合だけだと判断。利益の最大10%を徴収するマイニングプールもあるが、最も良心的なところは1%しかとらないため、手数料は控えめに見積もって1.5%にする。

イーサリアムに関する情報サイト「イーサスキャン」の過去の採掘難易度を示したグラフからいくつかのデータ点を抜き出し、指数回帰分析を実行した。その結果、イーサリアムの採掘の難易度が次第に上がっていることを示す指数関数的な係数が得られた。

ブロック難易度の成長関数

これに基づいて以下の値を計算し、将来の採掘難易度を予測グラフで示した。

イーサリアムのエコシステムの諸条件

ブロック難易度の伸びに基づき、難易度係数は1年間で「2,280,210,891,539,710」から「11,880,071,363,893,300」に上がると算出した。難易度関数の一致を使い、これが将来の値にも適合すると仮定することで、採掘難易度の増大係数を算出した。

ブロック難易度はイーサリアムの採掘用パソコンの利益と反比例の関係にある。つまり、日を追うごとに難易度は上がり、パソコンの利益は下がる。

採掘用パソコンの利益はやがて、運営に必要な電気代を賄えなくなる。運営を続ければ赤字がかさむため、この時点で採掘をやめなくてはならないだろう。

仮想通貨の情報サイト「コインワルツ」の採掘利益試算システムにブロック難易度を入力すると、わずか1年で1日あたりの利益は18.24ドルから1.60ドルに下がった。この試算システムには、ハッシュレート(MH/s)、消費電力(W)、電気代(ドル/kWh)、難易度、ブロック報酬、プール手数料、イーサリアムの対ビットコインでの為替レート、ビットコインの対ドルでの為替レート、ハード機器の費用を入力する。予測利益関数の計算では、月に1度試算システムにデータを入力し、線形近似曲線を作成した。

試算結果によると、18年1月に採掘を始めたとすると、1年半後(476日目)には赤字に転落する。イーサリアムの採掘用パソコンの運営費が利益を上回るようになるからだ(ここでもイーサリアムの価格は固定とする)。

運営費が黒字の間の総利益は2916.59ドルに達する。だが、前述の初期投資コストを差し引けば、実際の利益は投資額をやや下回る。赤字を一部穴埋めするためにGPUを転売してもよいが、現状でも1年半前のGPUの価値はほとんどなくなっている。それほど目覚ましい勢いで採掘機器が次々に改良されるため、機器は大きく値崩れし、損失額が膨らむだけになる。最終的には、GPUがいくらで売れるかによって採掘の投資リターンが決まる。

例えば減価償却率を(1年で)50%とすると、600ドルのGPUにとっては有利なレートになる。GPUを1個300ドルで売れば転売で1200ドルを得られるため、総収益は4116.59ドルになる。この場合、(初期投資の3000ドルを引いた)利益は1116.59ドル、リターンは37%だ。

アマゾン・ドット・コムでGPUの価格をチェックすれば、すぐに100ドル未満に下がることが分かる。100ドルで売ったとしても、転売価格は計400ドルに上る。この場合の総収益は3316.59ドルで、利益は316.59ドル、リターンは約10.5%だ。

試算では、電気代を理想的とまではいかないが、楽観的なシナリオで想定した。コネティカット州とワシントンDCにそれぞれ住む個人採掘者と、今回の仮想採掘用パソコンの3つの例について考えてみよう。

米都市別の総利益

住む場所によって電気代は採掘利益に大きな影響を及ぼす。ワシントンDC在住の採掘者の場合には、GPUを1個150ドルで売ってもかろうじて元が取れる程度だ。

試算では、運営費や冷房費、保守管理費などの潜在的なコストも除外した。

もちろん、実際の採掘では、採掘している通貨(この場合にはイーサリアムの通貨単位イーサ)が大幅に上昇することを当て込む。採掘によりイーサを得るのは、効率の悪いイーサリアム獲得手段といえるだろう。

代わりに、最初から希望する仮想通貨に全ての資金を投じれば、採掘機器の運営に悩まされることなく利益を得られる。

近い将来、採掘による利益はさらに脅かされることになる。間もなく、イーサリアムの承認の仕組みが(現行のプルーフオブワークから)キャスパープロトコルのプルーフオブステークに移行するからだ。実際に移行すれば、2~3年後には従来の採掘は不要になり、採掘用パソコンは廃れる。採掘用パソコンはもはやイーサリアムの採掘で利益を得られなくなる。代わりに、(採掘者に対する)「ステーカー(出資者)」が資産を確保することだけが、イーサリアムのブロックチェーンから利益を得る唯一の手段になる。ステーカーになるには、プルーフオブワークに求められるようなGPUを使った複雑な計算力はもはや必要ない。

この記事はイーサリアムの採掘を思いとどまらせるのが目的ではない。今の巨大な分散システムを守るには採掘者は不可欠だ。イーサリアムの価格が上昇すれば、採掘で利益を得られると説明するのが、この記事の目的だ。イーサリアムなどの仮想通貨で直接決済できるサービスが広がれば、値崩れしやすい機器への投資が必要な採掘の優位性は薄れるだろう。

By Hunter Prendergast=米MIMIRブロックチェーン・ソリューションズの最高技術責任者(CTO)、John Licata=同最高マーケティング責任者(CMO)、Mustafa Inamullah=同クリエーティブコンテンツ・デザイン部門責任者

(最新テクノロジーを扱う米国のオンラインメディア「ベンチャービート」から転載)

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