2019年9月17日(火)

決済先進国はまだ走る
(WAVE)瀧俊雄氏

2018/3/1 11:30
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ロンドンに来ている。いつもヒースロー空港からは、急ぎでなければ地下鉄に乗るようにしている。空港から数駅を経て地上に出ると、車窓からは低層レンガ建ての長屋の住宅街が目に入り、小学校の頃を過ごしたロンドンの記憶を少しばかり思い出す。

マネーフォワード取締役兼Fintech研究所長。野村証券で家計行動、年金制度などを研究。スタンフォード大学経営大学院、野村ホールディングスの企画部門を経て、2012年にマネーフォワードの設立に参画。

だが50分もして都心にたどり着けば、その郷愁も一気にかき消される。一昨年のまさかの国民投票結果を経て、欧州連合からの離脱という、新たな英国のあり方を模索するリーダーたちの姿がある。

フィンテックもこの動きと無縁ではない。もともと欧州圏内ではシングルパスポートと呼ばれる、銀行や送金サービスの登録免許が他の国でも通用する制度があり、ロンドンへのベンチャー人材と投資資金の集積を促してきた。その特徴が失われるかもしれない中、当初は欧州のフィンテックの中心地はフランクフルトだ、パリだ、といった議論も行われていた。

だが調査している限りエコシステムの縮小や移転はまだ起きていないようにも感じる。その背景には肌感覚ではあるが、英国が決済システムの先進性において世界をけん引してきたことに加えて、離脱交渉の渦中にあるテリーザ・メイ首相が、フィンテックのプロ中のプロであることも影響しているのではないか。

メイ首相は議員となる前の12年間、英国の決済インフラの業界団体で国際渉外を担っていた。英国の決済インフラはその先進性もさることながら、業界団体やプレーヤーが中央的な意思決定に自律的に対応してきた歴史がある。

例えば決済口座乗り換えサービス(公共料金支払いなどを含めて生活移管が可能)や、迅速な決済ネットワークの整備などで、当局や世論よりも先手を打ってきた。その背景には常に技術進化への対応があり、積極的な動きが最終的には国際競争力を保ってきた。

また、金融街カナリー・ワーフでは2013年にLevel39と呼ばれるフィンテック起業家の集積地が設立された。そこで経営者のメンタリングや業界としての内外折衝を行うプロ集団の存在は、日本における取り組みの模範にもなっている。世界中を見渡しても、ここまでベンチャー拡大に向けた環境がそろっている取り組みは類を見ない。

だが、当事者たちからはまだ物足りないという声が聞かれる。彼らは、英国にはシンガポールに見られるような国有ファンドがないことや、規制サンドボックスと呼ばれるイノベーション対応が国内に閉じていることを挙げ、メガベンチャーが多く生まれないことに強い危機感を持っている。

合言葉は「ホームラン」である。多少のベンチャーが出ることが目的ではなく、真に世の中を変えるプレーヤーを求める目線が貪欲だ。このような目線に向けて、首相も大いなるサポートを行っている。

未知の可能性を追うプロジェクトにおいて、及第点を追うスタイルはおしなべて失敗する。ベンチャー支援はよく「取り組み」と形容されるが、本来求めるべきはその結果であり、雇用の創出や消費者利便こそが目標である。欧州離脱という転換点を迎えた中、メイ首相という大役者の支援を糧に、ロンドンのフィンテック制度は今後とも世界をけん引するのではないか。

[日経産業新聞 2018年3月1日付]

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