とろーり煮卵 黄身の半熟と殻をつるんとむくコツは?

今回のテーマは煮卵。いかにも単純そうだが、いざ作るとなると実は難しかったりする。
フリーライターという職業柄、書籍の編集者とよく会う。その際に「御社で今年(会った時期が年の頭のほうだった場合は、昨年)いちばん売れた本はなんですか?」と質問する。意外なテーマがウケていたり「あ~、それはみんな大好きなネタだよね!」と納得するものだったり、なかなか興味深い。
先日会った編集者にいつもの質問をしたところ、返ってきた答えは「煮卵の本です!」。
聞いたときの反応はもちろん「あ~、それはみんな大好きなネタだよね!」のほう。ラーメン屋さんで黄身がとろーりの半熟煮卵が乗っていたときの幸せな気分ったら! 居酒屋さんで頼んだ豚の角煮に思いがけず煮卵が添えられていたときのうれしさったら!
実際にはその本は安くて簡単につくれるひとりぶんの料理レシピ集で、煮卵のレシピは1ページのみ。でも、本のタイトルが「世界一美味しい煮卵の作り方」というのは、みんな潜在的に煮卵が好きということを制作側がよく知っているからで、タイトルの勝利だなぁと感じた。好きな食べ物に「煮卵」をことさら挙げる人は多くないが、嫌いという人にお目にかかったことがない。

書籍タイトルにすることが読者への「引き」になったのは「煮卵は誰もが好き」というだけではない。実は手作りしようとすると意外と難しいという面もある。
本やネットのレシピサイトに載っている煮卵のレシピはだいたいこのようなものである。
(1)卵を6~8分ゆでる(分数はレシピによって異なる)。
(2)卵を冷水にとった後、殻をむく。
(3)「しょうゆ+みりん」あるいは麺つゆなどの「調味液」に1日ほどゆで卵を浸す(ジッパー付きビニール袋に入れるか、食品保存容器にゆで卵を入れて調味液を染み込ませたキッチンペーパーを乗せる)。
お気づきかもしれないが、実は「煮卵」は「煮ていない」。半熟卵を味つけ段階で煮てしまうと黄身が固まってしまう。ゆえに「半熟煮卵」を作る場合は調味液に浸すのみである。煮ていないので「味つけ卵」、略して「味たま」とも呼ばれる。

で、どの部分が難しいのかというと(1)と(2)つまりは「半熟ゆで卵」を作る過程である。私もたびたび半熟ゆで卵作りを失敗する。断っておくと私は料理下手というわけではない。料理は好きで飲食店経営もしていた。(3)は麺つゆであれば味が完成されているし、しょうゆとみりんも目分量でもおいしくできる。しかし、黄身を「とろーり半熟」に仕上げ、殻をつるんとむくのは意外と至難のワザなのだ。
つまり、おいしい煮卵を作るポイントは、いかに上手に半熟ゆで卵を作るかだといっていい。
半熟ゆで卵をうまく作るコツについてケンコーマヨネーズ株式会社の商品開発担当者にうかがった。同社はマヨネーズ・ドレッシングやサラダ・総菜のほか、業務用の厚焼き卵、だし巻き卵、ゆで卵などの卵加工品の製造・販売を手がけている。つまり、卵を知り尽くしている会社だ。もちろん、半熟煮卵・煮卵も扱っている。
「家庭で半熟ゆで卵を作るときは水に卵を入れてから鍋を火にかけるようにしてください。急な温度変化は卵が割れる原因になりますので。沸騰するまでは強火で、沸騰したら中火に。お箸などで円を描くようにかき混ぜながらゆでると卵黄が中心になりやすく、切ったときの断面が美しく仕上がります。沸騰から5分程度を目安にゆで、すぐによく冷やしてください。こうすることで余熱によって内部が固くなってしまうことを防ぎ、殻もむきやすくなります」
私は長いこと「ゆで卵は鍋のお湯が沸騰してから卵を入れる」だと思っていた(ネットのレシピサイトを見ると「水から」派と「お湯から」派と両方ある)が、「水から卵をゆでる」がいいとは!!
実は私が半熟ゆで卵作りに失敗する理由は自分ではわかっている。料理の教科書には「卵はゆでる前に冷蔵庫から出し常温に戻しておく」と書いてある。前述のとおり急な温度の変化で卵が割れるのを防ぐためだが、私は根がせっかちなため、冷蔵庫から出して30分ほどでゆでてしまう。

すると、卵の温度がまだ冷たいため、鍋のお湯の温度が下がり、レシピ通りの分数でゆでても白身の固まり具合が不十分になってしまうのだ。そうなると殻もむきにくくなる。
だが、教えていただいたやり方だと、卵を早く常温に戻す効果もあり、途中で鍋のお湯の温度が下がることもない。これは失敗がないし、せっかちさんでもできそうだ。
注意点として「卵のサイズや何個ゆでるかによっても状態は変わります。その際はゆで時間の調整を20秒単位でおこなっていただくとお好みの黄身の状態にしやすいですよ」とも。
卵のサイズは重さによってS、M、Lなどがある。私が半熟ゆで卵作りに失敗していたのは、どうやらここにも理由があったようだ。私は買う卵のサイズやゆでる個数がいつも定まっていなかったので「これがベストのゆで時間!」と思っても、次に作るときには条件が変わってしまっていたのだ。
今後はサイズとゆでる個数を定めることとしよう。20秒単位で黄身の半熟具合も変わってくるとのことだから、卵をゆでるときにはスマホのストップウオッチ機能は必須だ。
卵は常温保存でもよいという話を聞くのだが、それに関しては「常温でも保管できますが、常温だと菌の増殖も早いですし、生で食べることも考えると冷蔵保管の方がよいでしょう」とのこと。

「冷蔵庫で保管する際は卵のとがったほうを下にして保管してください。卵は古くなるにつれて卵の中で卵黄が浮いてくるのですが、黄身が殻に直接接触すると鮮度が落ちてしまいます。卵の丸いほうには『気室』という空気の部屋があり、こちらを上にすることで卵黄と殻が直接接触することを防ぎ、より長く保管することができます」
そうそう、もうひとつ私が半熟ゆで卵作りに失敗する理由ではないかと疑っていることがあった。それは卵の鮮度だ。スーパーで買ってすぐの卵を使うと殻がうまくむけず、失敗する確率が高い気がする。卵は古いほうが殻をむきやすいと聞いたことがあるけど、本当?
「本当です。新鮮な卵には炭酸ガスが多く含まれています。この状態でゆで卵を作ると卵白が殻に密着しやすく、きれいにむけません。卵の中の炭酸ガスは時間が経つにつれて抜けていきます」
卵の賞味期限は「卵を安心して『生食』できる期間」だそうだから、半熟に仕上げるのであれば「買ってすぐではないが、賞味期限内のもの」を使うとよさそうだ。
つるんと殻をむくコツについては「やはり、ゆでた後によく冷やすこと。熱によって膨張した卵が収縮し、卵白と殻の間に隙間ができますので、むきやすくなります。水中でむくと水が殻と卵白の隙間に入り込み、さらにスムーズにむけますよ」とのアドバイスをいただいた。

まとめると……。
(1)買ってからしばらく置いた、しかし、賞味期限内の卵を使う。
(2)水からゆでて約5分。
(3)ストップウオッチ機能を使って20秒単位で時間管理。
(4)ゆでたら氷水に入れるなどして急激に冷やす。
(5)殻は水の中でむく。
(6)「これは!」というベストなゆで時間が決まったら、卵のサイズと個数を変えない。
このあたりを徹底すれば失敗はなくなりそうだ。漬けるときの注意点としては漬けこみ時間が長いほど卵に味がしみ込んで味が濃くなりすぎてしまうので、12~24時間くらいをめどに時間を調整しよう。
さて、煮卵はそのまま食べてもおいしいが、アレンジしてもおいしい。
「刻んだ煮卵をマヨネーズとあえることで一風変わった和のテイストのタマゴサラダを作ることができますよ。これはトーストなどによく合います。また、薄い衣でさっと揚げて天ぷらにすると、外側のサクサク感と中のとろっとした半熟感が楽しめます」(ケンコーマヨネーズ株式会社商品開発担当者)。

うわー、煮卵の天ぷら! ラーメンで人気のトッピング「煮卵」と、讃岐うどんで人気のトッピング「半熟卵の天ぷら」がタッグを組んだら、それは絶対においしいに決まっている!
ラーメン、鶏肉と大根の煮物や豚の角煮のトッピングなどの定番アレンジはもちろん、おにぎりや「おにぎらず」(包むだけの握っていないおにぎり)の具にもおススメ。半熟の黄身は完熟の黄身よりも色が鮮やかなので、ゆで卵を使うものはなんでも半熟煮卵に置きかえれば、見た目もゴージャス、味もグッとおいしくなる。
私の好きなアレンジ煮卵は「燻製」、すなわち「燻たま」だ。最近は家庭のガスコンロを使ってできる簡易な燻製器もある。いぶす前にキッチンペーパーなどで卵のまわりの調味液をきちっとふき取り、桜のチップで10分ほどいぶすだけ。
こうすると一気に「大人の煮卵」に変身。ウイスキーやフルボディーの赤ワインにも合う最高のおつまみになる。キャンプやバーベキューに煮卵と燻製の道具を持参すれば、ウケること必至だ。

調味液をアレンジするのもまた楽しい。中華料理に使う星形をしたスパイス・八角を入れると、香港や台湾のコンビニおでんを連想させる煮卵に。ナンプラーを加えて作った煮卵に刻んだパクチーを乗せて食べるのもビールに最高に合う。
漬けるものを鶏卵ではなく「うずらの卵」に変えてもいい。こちらの場合も水からゆで、沸騰してから2~2分半おき、急激に冷やすべし。ようじにさしてピンチョス風にすればパーティー料理にもなる。
みんなが好きな煮卵、ホームパーティーに、アウトドアに持っていけば人気者になれること間違いなし!
(ライター 柏木珠希)
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