2019年8月19日(月)

職人魂 鍛えてくれた芦屋 パン店「ビゴの店」社長 フィリップ・ビゴさん(もっと関西)
私のかんさい

2018/2/27 17:00
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■兵庫県芦屋市に本店を置くパン店「ビゴの店」を創業したフィリップ・ビゴ氏(75)が来日して半世紀以上がたった。本場の味のフランスパン(バゲット)を広め、日本で外国人初の「現代の名工」に選ばれた。仕事への思い入れは強い。

 Philippe Bigot 1942年、フランス・ノルマンディ地方で生まれる。レイモン・カルベル氏に師事し、65年に初来日。ドンク入社後、72年にビゴ設立、「ビゴの店」開業。03年フランス「レジオン・ドヌール勲章」授与。17年に「現代の名工」に選ばれた。

Philippe Bigot 1942年、フランス・ノルマンディ地方で生まれる。レイモン・カルベル氏に師事し、65年に初来日。ドンク入社後、72年にビゴ設立、「ビゴの店」開業。03年フランス「レジオン・ドヌール勲章」授与。17年に「現代の名工」に選ばれた。

仕事に対しての愛情や礼儀は職人の心に不可欠。効率化しようと大量のイースト菌を入れて短時間でパンを発酵させても、やはり何かが抜けてしまう。金もうけより、まずはお客さんを本当に喜ばせる気持ちがないとあかん。弟子にはそう言い聞かせてきた。

フランス北西部の町で、パン職人の父のもとに生まれた。13歳から実家で修業を始めたが、厳しい父と折り合えず15歳で逃げ出した。今振り返ると父はパン職人の世界の厳しさを教えていたのだろう。その後パリのパン店で見習いをした。シェフがクロワッサンを焼いたとき、1つ形が崩れたものが列に紛れ込んでいた。指摘すると、シェフの平手が僕の額にパーンと飛んできた。見習いが口答えするなということだろう。

■国立製粉学校製パン科で師事した恩師から、1965年の東京国際見本市でバゲット焼きの実演を任される。その後パン大手ドンクの藤井幸男社長(当時)を紹介され、技術指導者として1年間、神戸・三宮本店で働いた。

港町・神戸は外国人が多く、欧州の文化をいち早く取り入れてきた。まちの雰囲気は僕にぴったりだった。藤井社長は仕事に一生懸命だったが、職人を家族のように受け入れてくれた。パンは生き物で、環境にとてもデリケート。日本の夏はフランスと比べ高温多湿だから、生地はだれるし、釜にパンがくっつくからやりづらい。だが十分に時間をかけて発酵させてこそ、甘さと酸味が混ざり合った絶妙な風味が生まれてくる。そこはこだわり続けた。焼きたてのバゲットを買いに来店するお客さんが増えていった。

■7年間、東京や札幌、名古屋など全国各地の店舗を転々とする。一方で、独立への思いも徐々に高めていった。72年、ドンクから芦屋店を譲り受け「ビゴの店」1号店を開くことになる。

ドンクで本場のバゲット作りの技術指導にあたった

ドンクで本場のバゲット作りの技術指導にあたった

藤井社長に「どこで店を開きたいか」と聞かれ「ドンクさんの邪魔にならないところで」と答えた。「もっといいものを作れるなら芦屋でやってみろ」と、思いもかけず芦屋店を譲ってもらった。

6人のメンバーでスタートした。芦屋は舌の肥えたお客さんが多い。松下幸之助さんのお嬢さんから誕生日ケーキの注文を受けたが、あまりの忙しさに別の職人に作らせた。すると「ビゴが作った味じゃない」とばれてしまった。半分うれしかったが、裏切ったらあかんと自分に言い聞かせる経験になった。

1斤の食パンでも「持ってこい」と電話が入れば、30分以上かけて届ける日々だった。なんべんも泣きながらやけくそになって配達した。だけど相手の心をいただけるまで入りこまないとあかん。おいしさを分かってくれれば来店して1000円、1万円とどっさり買ってくれた。それが芦屋のお客さんだった。

■過度な出店による負債、95年の阪神大震災、自身の病気など様々な苦難を乗り越え、現在は関西を中心に12店舗を運営する。

関西では家族のようなつながりがある。パン職人の世界もそう。弟子の成長を見守り、巣立っていく姿を見ると誇らしくなる。関西は首都圏より経済力のスケールは小さいが、だからこそ、人とのつながりの温かさや細かさといったことを際立たせていけるのではないか。伝統的な日本らしさが残っている。

昔、日本でバゲットといえば「硬くて食べられない」と言われたが、おいしいパンということを多くの人に知ってもらえた。でも僕も今年で76歳。そろそろゆっくりしたい。

(聞き手は神戸支社 杉浦恵里)

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