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ぬれない霧 広がる用途 いけうちの加湿システム(もっと関西)

ここに技あり

ロール紙がずらりと並ぶ印刷工場。天井に設置されたノズルから真っ白な霧が勢いよく噴き出す。紙同士がくっつく静電気を防ぐ加湿器だが、紙がぬれることはない。スプレーノズルメーカーのいけうち(大阪市西区)が開発した「ドライフォグ」だ。

ぬれない霧の秘密は超微細な水滴だ。水滴は細かいほど表面張力が強くなり、ぶつかってもはじけずに跳ね返る。夏に街頭で見かける冷房用ミストの粒子がおおむね直径20~30マイクロメートル(マイクロは100万分の1)なのに対し、ドライフォグは平均7.5マイクロメートル。物に付着することなく空間に漂う。ノズルは2つの噴射口が向き合う構造で、噴き出した霧を高速でぶつけ合わせる。より細かく、ばらつきの少ない粒子を生み出す。省エネ性能にも優れ、電気や燃料で加熱する蒸気式加湿器と比べた維持費は約5分の1だ。

勢いよく噴き出る「ドライフォグ」。紙をぬらさずに印刷工場を加湿する(岡山県瀬戸内市)

2014年に導入したコーホク印刷長船工場(岡山県瀬戸内市)では、静電気による障害や湿度変化で起きる紙の伸縮で印刷機を止めることが年に7、8回あった。そのたびに数百メートルの紙を廃棄していたが、「トラブルがほとんどなくなり、損失が減った。工場内の乾燥も防げて、従業員が風邪を引きにくくなったようだ」(安田伸之工場長)。

印刷以外の工場でも静電気は大敵だ。ドライフォグは半導体などの精密機器や化学薬品、繊維やプラスチックといった業種でも採用され、ドライ型ミストの加湿システムで国内シェア1位に立つ。

いけうちの創業は1954年。国産の繊維機械を輸出する商社だった。創業者の池内博名誉会長は、レーヨンを紡ぐ機械に使われていたセラミック製の口金に着目。摩耗や薬品に強い技術を他にも生かせないかと、スプレーノズルへの応用を思いついた。金属製ノズルの摩耗に悩んでいた農薬散布機メーカーなどに受け入れられ、61年に世界初のセラミックノズルを世に送り出した。

ノズルメーカーへの転換から約半世紀。扱うノズルの種類は4万2千点を超え、加湿だけでなく様々な用途で販路を広げている。空調事業部大阪営業所の江崎寛通所長は「ノズルではなく霧を売っている」と話す。

発電所の冷却や医療器具の洗浄、食品工場では調味料の吹き付けにも用いられている。最新の農業用システムでは、ビニールハウス内で冷房、加湿、農薬散布という3つの機能を1つのノズルが担う。「より少ないエネルギーでできるだけ細かい霧を作ることは永遠の課題。今後も挑戦していく」(江崎所長)。湿度調整からメンテナンス時期まで一括管理するシステムにも取り組んでいる。

文・写真 大阪写真部 淡嶋健人

 カメラマンひとこと 加湿器が設置されている天井は高さ約4メートル。霧を間近で撮るために、10段の大脚立を用意した。ぐらぐら揺れる足場の上で息を止めてカメラを構えるが、霧は思いのほか薄くてはっきり写らない。光で浮かび上がらせようと、加湿器の下からストロボを当ててみる。脚立を何度も上り下りし、位置や光量を細かく調整しながら撮影した。

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