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渡辺、米大学バスケで奮戦 NBAにアピール

スポーツライター 杉浦大介

日本バスケットボール界期待の渡辺雄太の米大学でのキャリアが大詰めに近づいている。全米大学体育協会(NCAA)1部のジョージ・ワシントン大学で4年生を迎え、今季は平均16.0得点、6.5リバウンドの好成績。渡辺が主将を務めるチームはスランプも経験したが、2月に入って調子を上げている。3月のNCAAトーナメントに進出し、大きな目標の米プロバスケットボール、NBA入りに向けてアピールできるか。(記録は2月21日現在)

渡辺は「エース」と呼ばれるにふさわしい働きを続ける=Photo GWsports

最上級生になった今季の渡辺は、まさに「エース」と呼ばれるにふさわしい働きを続けている。2017年12月30日以降は15試合連続で2桁得点をマークし、平均得点やリバウンド、ブロックはすべてチーム1位。11月29日、12月3日の2試合では大活躍で連勝に貢献し、アトランティック―10(A-10)カンファレンスの「プレーヤー・オブ・ジ・ウイーク」(週間MVP=最優秀選手)も受賞した。

「1対1ならどんな相手でも守れると自分では思っている。それが僕の強み」。渡辺本人がそう語る通り、その活躍はオフェンスだけにとどまらない。もともと評価が高かった強固なディフェンスは健在。バスケットボールでは攻守両面で優れた選手を「2ウェイ・プレーヤー」と呼ぶが、今では渡辺は「A-10カンファレンス最高クラスの2ウェイ・プレーヤー」と評されるようになった。

ゴンザガ大の八村塁と並び、渡辺は「NBAに最も近い日本人」と評されている。その夢に向けてひた走る23歳は4年生にして所属チームの立派な「大黒柱」に成長し、NCAA1部でもトップレベルの選手に成長したといっても過言ではない。

しかし、渡辺の頑張りにもかかわらず、今季のジョージ・ワシントン大は厳しい時期も経験してきた。昨季の得点源だったタイラー・キャバナー(現在はNBAアトランタ・ホークスに所属)が卒業し、1、2年生が大半という若いチームになった。経験不足ゆえの苦しみを味わい、1月3日~2月3日の9試合で8敗と低迷。勝てないチームの中で我慢に我慢を重ねていた渡辺が、ついに怒りを爆発させたのが3日のデビッドソン大戦だった。

「成長が見えてきていない」「小学生レベルでも起こしてはいけないミスが出ている」「試合が終わってこんな(悔しい)気持ちになっているのは初めて」「みんなが考え直さないといけない」

渡辺(右)は「1対1ならどんな相手でも守れる」と語る

地元でのゲームで29点差で大敗したあと、いつもは温厚な渡辺は目を真っ赤に染めてそうまくし立てた。ふがいない負け方に失望し、ロッカールームでは人目もはばからずに涙を流したという。「今年のチームには時間が必要」と言い続けた渡辺が開幕直後から胸にしまい続けた思いがついにこぼれ落ちた瞬間だった。

「怒りの涙」がチームの転機

しかし、今振り返ってみれば、この渡辺の「怒りの涙」がジョージ・ワシントン大にとっての転機となった。

デビッドソン大戦以降、ジョージ・ワシントン大は5戦して4勝。2月17日のVCU戦では24点差、21日のリッチモンド大戦では26点差でそれぞれ大勝した。ここ数試合ではボールがよく回り、全員がハードにディフェンスをしている。1カ月ほど前とはほとんど別のチームに見えるくらいの好調ぶりだ。

「みんなの気持ちが変わった。デビッドソン大戦後には僕が声を荒らげ怒って、恥ずかしい話ですが、ロッカールームでしばらく泣いてしまった。チームを引っ張れなかった自分のふがいなさと、実力の変わらない相手に大差で負けたのが悔しかった。ただ、それでみんな少し気持ちを切り替えてくれたのか、今はみんながパスを回して、自己中心的なプレーをしていない。特にディフェンスでも足が動くようになって、チーム状態はすごくよい」

そんな渡辺の言葉通り、誰よりもチームの向上を願うエースの思いは仲間たちに伝わったのだろう。最近ではゲーム前のウオームアップ、ハーフタイム中のミーティング時の選手たちの姿勢にも明らかな変化が見えるという。

4年生になった今季を通じて、渡辺はリーダーシップの発揮に苦心してきた。最上級生でチームのベストプレーヤーでも、リーダーとしての役割は別物。現在は英語での日常会話が問題のない渡辺でも、効果的に声を出して引っ張るのは簡単ではなかった。しかし、どんな言葉よりも自らの姿勢と思いで示すことこそが、最高のリーダーシップになったのかもしれない。

チーム成績の向上と同時に、最近の渡辺は間違いなくベストのプレーを続けている。今季を通じて安定してきたのは前述通りだが、2月7日のラ・サール戦では自己最多の29得点をマーク。その後も好調を保ち、2月21日までの6試合のうち4試合で20得点以上を挙げてきた。これまではオフェンス面では遠慮がちな印象もあったが、シーズン終盤に来て堂々とシュートを放ち、高得点を重ねるようになった。

「自分がチーム引っ張る」

渡辺はNCAAトーナメント進出を目標に掲げてきた=Photo GWsports

「ラ・サール戦が僕にとっての転機。自分がチームを引っ張ってやろうと、最初から最後までアグレッシブに攻めた。その結果として29得点。あの試合で自信がついたというか、自分はやればできるプレーヤーだと思えるようになった。成長できている時期だと思う」

明るい笑顔でそう述べる通り、大学生活も最後の最後に来て、渡辺は完全に才能開花の時を迎えているのだろう。個人、チームともにこうして調子を上げてきたところで、タイミングよく最後の大勝負を迎える。3月7日から地元ワシントンDCで、シーズンを締めくくるA-10カンファレンス・トーナメントが始まる。

渡辺はジョージ・ワシントン大入学直後から3~4月に全米を舞台に行われるNCAAトーナメント進出を目標に掲げてきた。米大統領が予想を発表するほどの盛り上がりを見せることから「マーチマッドネス(3月の熱狂)」と称される同トーナメント。昨年は八村が属するゴンザガ大が学校史上初めて決勝まで進んだことも記憶に新しい。

過去3年は惜しくもNCAAトーナメントに進めず、目標を達成できなかった渡辺とジョージ・ワシントン大。今年も選抜での出場は難しく、残された道はA-10カンファレンス・トーナメントに優勝することだけである。

「最近は勝った試合はすべて2桁得点差をつけている。みんながリラックスせずに、今の精神状態で臨めばA-10(カンファレンス・)トーナメントも優勝できる。今は自分たちが向上できるチャンス。(トーナメントまでに)さらに成長したい」

上昇気流に乗りつつあるとはいえ、現在13勝15敗のジョージ・ワシントン大がA-10カンファレンス・トーナメントを制するようなことがあれば、ほとんど奇跡とすらいえるかもしれない。しかし、勢いに左右されがちな学生スポーツでは時に予期せぬことが起こる。試練を乗り越えてきた渡辺は「ミラクルラン(奇跡の実行)」に自信を見せている。そして、注目度の高いトーナメントでいいプレーができれば、渡辺はスタンドで見守るNBAのスカウトたちもアピールできるに違いない。

渡辺にとって間近に迫った最後の大舞台は紛れもなく大学生活の集大成。同時にバスケットボール人生を少なからず左右する戦いでもあるはずだ。

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