/

京大卒・元ボクサー、証券のリングに挑む

FOLIO・甲斐真一郎社長

1月にLINEと資本提携したインターネット証券のFOLIO(フォリオ、東京・千代田)。設立2年あまりで累計91億円を調達した甲斐真一郎社長(36)は、京都大学出身の元プロボクサーという異色の経歴の持ち主。外資系金融でのトレーダーを経て起業し、「口座数で日本一」を目指す野心家だ。

2000年京都大学法学部に入学。在学中にボクシングのプロライセンスを取得。06年ゴールドマン・サックス証券に入社。10年バークレイズ証券に入社。15年フォリオを設立。

テーマで10銘柄選ぶ

「人工知能(AI)」「コスプレ」「がんばろう東北」――。フォリオではテーマで10銘柄のポートフォリオを作り、さくっと商品選びができる。「投資にはリスク・リターンだけでは語れない世界観がある。こんなことを考えている金融機関はない」。甲斐氏は自信たっぷりの口調で語る。

特にこだわるのは、サイトのデザインだ。「『美と健康』のテーマは白基調。目に溶け込むかどうかが重要」(甲斐氏)。フォントや文章、写真などはすべて内製だ。投資テーマの用語は「先端テクノロジー」といった供給者目線をなくし、「世の中を変える」など利用者が関心を持ちそうな言葉を選ぶ。

繊細さも併せ持つ甲斐氏の経歴は元プロボクサー。「ボクシングのおかげであまりへこまない人間になった」。試合前の減量では前日にサウナで水分を絞り、1泊して4キロ減量したこともあった。「水風呂を見てよだれが出たのはあのときが最初で最後」と笑う。

特に精神が鍛えられたという。リングに上がるとアドレナリンが勝ち、パンチの痛みは感じない。「死ぬかもしれない」と考える試合前の重圧のほうが身にこたえた。今でも資金調達など忍耐力が求められる交渉には生きる。判断を間違えたら「会社が死ぬ」との思いで事業を伸ばしてきた。

ボクシングのきっかけは、学生時代にバーテンダーとして働いたバイト先だった。当時のあだ名は「京大生」。常連客らに「アタマだけでしょ」と鼻で笑われた。スポーツ万能だったが「口で言っても説得力がない」。大学2年時にボクシングジムの門をたたいた。

「体の動きが合ったのか思ったより自然にできた」。4カ月ほどでプロライセンスを取得。スーパーフライ級で初戦を勝ち、新人王のトーナメントへの出場権を獲得した。1年間におよぶトーナメントに参加するため大学3年に休学したが、結果は初戦で判定負け。「ボクシングで食っていくつもりはない」と引き際はあっさりしていた。

「口座数日本一、社員100人で」

就職は「とりあえず有名な会社」と、人気だった外資系の金融機関やコンサルティング会社を回り、ゴールドマン・サックス証券に入った。

生意気だと思われても思ったことはずばっと言う。入社時に同期全員の前で「ゴールドマンの社長になる」と宣言した。その後、バークレイズ証券も含め10年ほどトレーダーとして働いたが、金融危機を経て「夢がなくなった。10年もいると安定してしまう」と独立を考え始めた。

このとき勝負勘が働いた。アルゴリズムを使って資産運用を指南するロボットアドバイザーなどフィンテックの芽生えを見た。「この波をつかまないと間違いなく時代に遅れる」

「会社やめたんですって?」。34歳の誕生日、バークレイズのインターンだった山口和晃氏(26)からメールが来た。次の日に会い「一緒に働いてくれよ」と誘い、マーケティング担当に据えた。即決で仲間づくりが始まり、今では紹介採用を中心に60人超が集まった。

従業員の感性も重視して、テーマを60ほどそろえる。裏側の銘柄の選定も徹底。独自のアルゴリズムでファンダメンタル分析をし、業績予想などから上位10社を選ぶ。

「同業は意識していない。日本の金融機関はエンジニアの扱いを全くわかっていない」。甲斐氏はこう自信を示す。最良の「UX(ユーザーエクスペリエンス)=顧客体験」を目指すため、フォリオでは日々エンジニアと議論を重ねる。彼らの社内での地位も高い。

「誰でも使える金融商品を生み出したい。それなら誰もが使っているアプリがいい」。LINEとの資本業務提携の狙いだ。LINEや米ゴールドマン・サックス、三井物産などから総額70億円を調達した。

ネット証券は1990年代後半からマネックス証券や松井証券が主導してきた。これを背景に個人投資家の裾野を広げ、デイトレーダーも増えた。フォリオはこうしたイメージとは一線を画すが「(LINEなどの出資は)独立系の証券会社が資本力なしで続ける難しさを改めて示した」(フィンテック業界関係者)との声も上がる。

「日本で一番の口座数を目指す。社員100人ほどで実現できる」。常に強気な発言も元プロボクサーならではか。次は証券業界にどんなパンチを繰り出すのだろう。

(企業報道部 駿河翼、加藤貴行)

[日経産業新聞 2018年2月26日付]

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

業界:

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン