「街ごとホテル」で大阪にぎわす クジラの矢野社長

2018/2/25 6:30
保存
共有
印刷
その他

増え続ける空き家をホテル不足の解消に生かせたら――。住宅リノベーションのクジラ(大阪市)の矢野浩一社長(34)は、2つの課題を解決する新型ホテル「SEKAI HOTEL(セカイホテル)」を手がける企業連合の筆頭だ。持ち前の人懐っこさで法務や外国語対応にたけた事業者を集め、長年の夢だった社会貢献に挑む。

クジラの矢野社長

クジラの矢野社長

2002年辻調理師専門学校を卒業後、大阪市内の中華料理店で働く 03年知人の紹介で不動産会社に入社 07年不動産仲介・管理の「クジラ」を設立 13年リノベーションの事業モデルを完成 14年分譲マンションの賃貸を手がける「Otomari」を設立 17年経営者仲間とともに「SEKAI HOTEL」を開業

「経営者になりたかった」。地元の宇都宮市で高校を卒業する頃には、すでに起業家精神が芽生えていた。10代だった矢野社長にとって想像しやすかった飲食店の経営をめざし、家族の反対を押し切って縁もゆかりもない大阪の調理師専門学校に入学。卒業と同時に中華料理店に飛び込んだ。

働き始めると早々に壁にぶつかる。きつい立ち仕事に、狭い厨房で、テーブル番号でしか認識しない来店客に料理を提供する日々。「お客さんをオンリーワンとして見ていない」。料理人の道は半年で諦めた。

独立25歳までに

フリーターを半年経験した後、「数字を達成する営業の仕事がしたい」と個人経営の不動産会社に入社。不動産業にこだわりはなく3年でやめるつもりだったが、20歳を過ぎた頃に家庭を持ち仕事に没頭した。不動産業界では優秀な人材から独立するケースが多く、矢野社長も独立を強く意識するようになった。

異業種で起業した先輩に「27歳までに独立します」と宣言してみた。すると「矢野ちゃん、あかん。25までにしよう」とあっさりと修正された。聞けば「27歳で起業した自分より早く成功してほしい」という。一気にエンジンがかかった。

「居心地いい場所に成長はない」とアドバイスを受け、自らを追い込み24歳で会社設立にこぎつけた。社名は「一番大きくて溺れない会社」という意味をこめた「クジラ」。当初は大阪府下や神戸での不動産仲介や管理が主な業務内容。軌道に乗り始め、飲食店など業容を広げていった。

ところが2008年のリーマン・ショックで一気に赤字転落。借金の返済に追われる日々が続いた。優秀な従業員も離れていった。成功した業界の先輩をみれば、シャンパン片手にクルーザーでパーティーをする姿がSNSで目立っていた。業界にあふれる派手な金銭感覚や時間の過ごし方には全く共感できなかった。理想とする「事業そのものの成功が意欲につながる経営者」の姿とはあまりにかけ離れていた。

ただ借金返済にもメドがつかず、日に日に悩みは増える。夜逃げも頭をよぎった。嫌というほどみてきた業界の負の要素を「全部ひっくり返したら一番になれる」。一周して前向きになれた。

やる気も新たに業界の大先輩を食事に誘った。「新聞や本は読んでいるのか」「朝何時に起きてるんだ」と厳しく叱られた。頭ごなしな言われ方はもともと苦手だったが、ストイックに努力を続ける相手に言われると不思議とふに落ちる。「まねすれば同じ景色が見えそうだ」

経営書片端から

この日から数ある経営書を片っ端から読みあさった。イノベーションを起こすためにと、あえて業界外の経営者の考えを学んだ。南場智子さんの「不格好経営」を読んだときには「この人ほどの苦境にはない」と心が少し楽になることさえあったという。「伸びる会社とは大学生に好かれる会社」。ひとつの結論にいたった。

クジラがリノベーションした部屋

クジラがリノベーションした部屋

かっこいい会社、新規事業に取り組む会社――。点と点がつながり、リノベーションを事業の柱にすることにした。方向転換を進めるとともに大学生のアルバイトも雇った。若者の考えに触れながら新事業を考えるうち、昭和40年代から残る分譲マンションをリノベーションして週単位で貸し出す事業に着目した。中古マンションに価値をもたらす社会貢献の形も矢野社長の理想と重なり、SEKAI HOTELのベースとなる事業モデルが13年に完成した。

不動産業界特有の下請け制度も廃止しようと、デザインや施工などを自前で手がけるため、貸し出し運営を専門に手がける別会社「Otomari」(大阪市)も14年に設立。人脈を生かして会計事務所や語学教室を手がける関西圏のスタートアップを集め、点在する中古の不動産物件を生かしつつ、増加する訪日客の受け皿となる宿泊施設を町全体でつくる「クラウドホテル」の新業態を17年に立ち上げた。

ごった煮の大阪の町で築いた人間関係が転機に結びついた矢野社長。友達づくりが得意なようだが、「本当は超人見知り」と笑う。大阪・西九条で17年6月開業したSEKAI HOTELにはまめに顔を出し、学生インターンや若い従業員の声を拾って事業拡大のヒントを探る。矢野社長の実直さが、なにより若者を引きつける要素になっている。

(大阪経済部 川崎なつ美)

[日経産業新聞 2018年2月23日付]

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]