2018年12月14日(金)

新劇の歩み 演じて知る 大阪の劇団合同 3月に新作(もっと関西)
カルチャー

コラム(地域)
2018/2/23 17:00
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大阪市と隣接市内に拠点を置く13劇団で構成する大阪劇団協議会=代表幹事・尾崎麿基(まき)=が3月8~11日、ABCホール(大阪市福島区)で加盟劇団の合同公演を行う。上演作品「築地にひびく銅鑼(どら)」は同名小説を原作にした新作で「新劇」と呼ばれた日本の近代劇の歩みを振り返る。協議会は設立から47年を迎え、合同公演で今後に向けた立ち位置を確かめるとともに、演劇活動の活性化を目指す。

■思想統制越えて

丸山定夫を演じる井之上淳(中央)ら出演者が「築地にひびく銅鑼」の稽古に励む(大阪市中央区)

丸山定夫を演じる井之上淳(中央)ら出演者が「築地にひびく銅鑼」の稽古に励む(大阪市中央区)

協議会は1971年、大阪の演劇文化の振興と劇団相互の親睦のために設けられた。発足以来「大阪新劇団協議会」の名称だったが、2016年に演劇の一層の普及を図るため「新」の文字をとった。現名称に変更後、合同公演は初めて。

公演には加盟7劇団と劇団「遊劇体」の俳優計35人が参加する。最高齢が76歳、最若手は21歳と幅広い。稽古は1月上旬から劇団大阪(同中央区)の稽古場などで行っており、18日にその稽古場を訪ねた。

新作は大正・昭和時代に、「新劇の(市川)団十郎」と称された俳優、丸山定夫が理想の演劇を目指して苦闘する模様を2幕で描く。丸山の少年時代に始まり、知己を得た喜劇俳優、榎本健一の助言で新劇に着目。24年に東京・築地に開場した築地小劇場の付属劇団に研究生として加わり、劇場開設者の土方与志や演出家の小山内薫の演劇観に触れるといった過程をつづる。

小山内の死後、劇団は分裂し、丸山は土方らと新築地劇団を結成。思想統制が強まる中、生活苦にあえぎながらも演劇活動を続行。戦時中に劇場の多くが閉鎖されると、活動場所を求めて移動訪問劇団「桜隊」を組織する。公演に出向いた広島で原爆投下に遭遇し、帰らぬ人となった。

同公演を企画した劇団大阪の堀江ひろゆきは「協議会の名称変更も、上演作に本作を選んだ理由の一つ。新劇すなわち日本の近代劇の生い立ちを、それぞれの劇団員に知ってほしかった」と話す。

新劇はヨーロッパ流の近代的な演劇の呼称。明治末から大正にかけて「国劇」とされた伝統的な演劇や新派に対する言葉として広まった。その新劇の出発点として、演劇関係者は築地小劇場を位置付ける。

丸山は築地小劇場の開場時、開演の合図の銅鑼を鳴らす役に任じられ、銅鑼を鳴らした。この模様を新劇の開幕として舞台で再現する。舞台冒頭と最後にも銅鑼の音を入れるのは「新しい演劇」を切り開こうとした先人への敬意だろう。

■ドイツ歌曲歌う

楽曲ではドイツ歌曲「流浪の民」が、舞台の要所で出演者により歌われる。丸山は同曲を自身のテーマソングのようにしていたという。目指す演劇と活動場所を求めて、転々とせざるを得なかった彼の心情を歌に代弁させる演出だろう。

本番では正方形(一辺約5.4メートル)の平面舞台を置き、その舞台上で物語が進行する。出番待ちの俳優は観客の視界に入る舞台の両外に分かれて座り、物語を見守るという。この意図について、演出を担う遊劇体のキタモトマサヤは「8劇団の俳優が1劇団になって、演劇を作る様子を観客に味わってもらいたい」と話す。

丸山役の井之上淳は、丸山に関わるのは2度目という。最初は所属する劇団五期会が5年ほど前に「浮標(ぶい)」(脚本・三好十郎)を上演した時だ。同作は40年に新築地劇団が初演している。五期会版では、井之上は丸山が演じた洋画家の久我五郎役を務めた。「今回の作品に関わって俳優をやり続けたいとの思いをさらに強くした。観客には演劇のパワーを感じて欲しい」と意気込む。

本作は「浮標」を含め、ゴーリキー作の「どん底」やメーテルリンク作の童話劇「青い鳥」などかつての丸山の出演作が劇中劇として上演されるのも見どころ。役の作り方や間の取り方を巡る作中のやり取りは、どの劇団でも日々繰り返されている。

本作の重要なテーマとなっている演劇の方向性を巡る葛藤は、今日でも演劇人が常に胸の内に抱えている。そういった意味で、本作は「演劇とはどうあるべきか」を考えさせられる作品になっている。

(編集委員 小橋弘之)

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