ミネベアミツミ、「神風」も捉えた貝沼社長の賭け - 日本経済新聞
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ミネベアミツミ、「神風」も捉えた貝沼社長の賭け

経営統合から1年余り、ミネベアミツミの業績が急拡大している。2018年3月期の連結売上高は33%増の8500億円と過去最高を大幅に更新する見込みで、貝沼由久社長は20年3月期にも1兆円の達成を視野に入れる。業績が長く低迷していた旧ミツミ電機の事業部門も任天堂の新型ゲーム機向けで息を吹き返した。貝沼社長が描く「世界でも珍しい総合部品メーカー」として快進撃を続けられるのか。

「17年の私の一番の失敗はミツミの工場のビデオを撮っていなかったことだ。これを見てもらえれば何の疑いもなく『良くなった』と言える」――。ミネベアミツミの貝沼社長はミツミ事業の業績改善の要因を聞かれ、こう笑顔で語った。

ミネベアで長く経営トップを務め「買収王」の異名をとった故高橋高見氏の娘婿である貝沼社長がミツミ電機との経営統合に合意したのは15年12月。ミツミを株式交換で完全子会社化しミネベアミツミが17年1月に誕生した。18年3月期見通しのミツミ事業は売上高が2274億円、営業利益は232億円で、営業利益率は10%を超える。ミネベア流の現場改革が浸透したことが大きい。

貝沼社長は経営統合前から、ミツミ電機側に製造技術を支援する従業員をのべ500人規模で派遣。自らもフィリピンにあるミツミの工場などを訪れ、100項目以上の改善点を指摘したほどだ。ミツミの工場について「生産性向上が3倍になったのはざらだ」と語る。数多くの抜てき人事もしている。

ミネベアは精緻な金型を使う超小型ボールベアリングなどが得意で、徹底した生産性の改善で収益を稼いできた。経営統合後は技術指導の効果もありミツミの業績も大きく改善した。

貝沼社長はハーバード大学ロースクール出身の国際弁護士という経歴を持つ。70年代から数々の買収を繰り返した義父の高橋氏に請われて88年にミネベアに入社した。松下電器産業(現パナソニック)との小型モーターの合弁会社の経営などで製造現場にも精通して09年に満を持してミネベアの社長に就任した。

貝沼社長は義父譲りの買収による多角化とグローバル化を両輪に攻めの経営を進めてきた。主力生産拠点が集中するタイの洪水で大打撃を受けるなど厳しい局面もあったが、ミツミ電機の買収という賭けにも出て成長している。

 「現在のところ、来期に収益が大きく低下すると予想される製品領域はありません」。2月上旬に開かれた投資家向け決算説明会では吉田勝彦常務執行役員がこう力強く語った。主力事業が軒並み強い追い風を受けており、それがやむ気配が見当たらないからだ。

まずは祖業の小径ベアリングを主力とする「機械加工品」の収益性は「高原」状態にある。18年3月期は売上高が1740億円で、営業利益は437億円の見通し。営業利益率は25%に達する見通しだ。貝沼社長が語ってきたのは「(新興国市場などで)生活が豊かになると、ベアリングの需要が高まる」という原則だ。

「自動車」や「高級家電」が新興国で普及すれば使われる小径ベアリングが増える。データセンターのファンモーターや、ドローンなど小型ロボット向けにも需要が急増中。小径ボールベアリングは1月の外販数量が2億900万個と前年から25%以上増え過去最高を更新した。生産性改善でも増産が間に合わなくなる可能性もありタイで工場建屋の増築を決めた。

売上高の半分超を占める「電子機器」はスマートフォン(スマホ)液晶向けのLEDバックライトが主力製品で、業績拡大をけん引してきた。スマホではバックライト不要の有機ELの採用が広がり、需要減が見込まれていた。ただ、現時点での需要は根強く「来期も堅調な需要を見込んでいる」(吉田氏)という。

有機ELを採用し話題になった米アップルのスマホ「iPhoneX(テン)」も販売不振から減産が伝えられ、18年3月期にささやかれたミネベアミツミへの打撃もそれほど大きなリスクにはなっていない。

うれしい誤算はミツミ事業だ。旧ミツミ電機は経営統合前の16年4~12月期の営業損益が142億円の赤字と、不振にあえいでいたが、追い風というより神風が吹いた。任天堂のゲーム機「ニンテンドースイッチ」だ。公には認めていないが、同社はニンテンドースイッチ向けの部品などを手掛けている。経営統合後の生産性改善に加え、ニンテンドースイッチの大ヒットにより収益が大幅に改善した。

ミツミにはかつて、任天堂が06年に発売して世界的にヒットしたゲーム機「Wii」向けの受注が経営の大きな柱だった時期がある。ブームが終わった後は電子部品の技術は評価されても業績的には苦戦した。ただ、カメラ用アクチュエーターも高機能スマホで採用が増えており、旧ミツミの復活につながった。

だが、先行きには懸念もある。ドル箱である液晶向けバックライトも中長期的には有機ELに置き換えられる可能性は大きい。さらにゲーム機向けもブームが過ぎれば、事業が縮小することを何度も経験してきた。追い風が弱まった時への備えを整えることが急務だ。

15年をかけて開発に成功し「夢の製品」とされる次世代型荷重センサー、バックライトで培った技術を生かしたスマートLED照明や医療用ベッドセンサーなどに注力している。だが、いずれも新市場を開拓していく製品で、収益事業に育つかは未知数だ。貝沼流経営の真価がこれから試されそうだ。

(企業報道部 井沢真志)

[2018年2月23日付 日経産業新聞]

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