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量子計算機、クラウド時代が幕開け グーグルなど3社

日経サイエンス

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開発中の汎用量子コンピューターをネットを介して動かし、計算させることができる「クラウド量子コンピューター」が広がりそうだ。超電導量子コンピューター開発で先頭を走るグーグルと、原子時計の技術を用いた別タイプを手がけるスタートアップのIonQ(米メリーランド州)が、ともに今年中にクラウドを始める計画だ。先行するIBMを含め、量子コンピューターの3強がクラウドに出そろうことになる。量子コンピューターのハードを誰でも使えるようにすることで研究人口を増やし、ソフトの研究を促す狙いがある。

グーグルの量子AIチームを率いるジョン・マルティニス・カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授

グーグルの量子AIチームを率いるカリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョン・マルティニス教授は、「今年中にクラウドサービスを始める。量子超越チップの動作を確認できたら、それも使えるようにする」と話す。「量子超越」というのは、今のスーパーコンピューターには本質的にできない高速計算を量子コンピューターによって実行することを指す業界用語だ。

量子コンピューターでは、演算素子である量子ビットがN個あれば、2のN乗個のデータを量子的な「重ね合わせ」にして記憶できる。50量子ビットあればスパコンのメモリーサイズに匹敵する1000兆のデータが重ね合わせになり、そのすべてを同時並行で演算できる。マルティニス教授は、昨年末に量子超越を実証するための50量子ビットのチップを試作し、「2018年中に量子超越を示せるだろう」と語った。

グーグルと超電導量子コンピューターの開発で競うIBMは2016年5月、いち早くハードのクラウド化に踏み切った。専用ネットにプログラムを入力すると、ニューヨークのワトソン研究所にある量子コンピューターを自動で動かして計算を数千回くり返し、数分で結果の分布を返す。現在は16量子ビット。「化学計算や機械学習などのアプリケーションの開発者も、その下のミドルウエアの研究者も、私たちのクラウドを使っている」とジェリー・チョウ量子計算実験担当マネージャーは話す。利用者は6万人に達し、関連の論文も35本以上書かれた。今年から20量子ビットの有料サービスを開始し、「1年以内に50量子ビットマシンが稼働する見通しだ」とボブ・スーターIBMバイスプレジデントは力をこめた。

メリーランド大学などの研究者らが2016年に設立したスピンオフベンチャーIonQは、電場の力で空中に浮かべたイオンの列を量子ビットとして使う。超精密な原子時計にも使われている技術で、超電導と並ぶ有力候補だ。どの量子ビットもほかの全てのビットと直接結合できるのが超電導にはない特徴で、アルゴリズムを容易に実装できる。今年中にクラウドで公開する考えだ。「ユーザーは色々な量子コンピューターを試して、どれがうまく働くかを見ることができる」と創設者の一人、ジュンサン・キム・デューク大学教授は語る。

量子コンピューターは数年以内に、50~100量子ビットに達するとみられる。スパコンを超える並行計算能力を持つことは確かだが、実用的な計算でスパコンに勝てるかどうかは別の話だ。50量子ビットで1000兆の並行計算をさせれば、ベンチマークの勝負に勝つことはできる。だがその結果を普通に読み出せば、量子力学の法則により「重ね合わせ」が壊れ、1000兆の結果のうちのどれか1つが表れてほかはすべて消えてしまう。意味のある結果を得るには、膨大な並行計算の結果から、目的に合った数値を引き出す量子アルゴリズムが必要になる。

量子アルゴリズムは現在約60種類見つかっており、化学計算などへの応用が期待されている。だがその多くは1万~1億個以上の量子ビットを集積したフルスペックの量子コンピューターのためのものだ。50~100量子ビットでは量子コンピューターの最大の弱点である演算(計算のステップ)のエラーが訂正できないため、計算が進むにつれて失敗する確率が高くなる。ステップ数の多い計算は実行できない。

フルスペックの量子コンピューターの実現は20年以上先になるだろう。ここ数年は、50~100量子ビットで実行できる量子アルゴリズムの探索や、より効率的に量子コンピューターを使うためのソフトウエア開発などが焦点になる。クラウドはそのための有力な武器になりそうだ。

(詳細は24日発売の日経サイエンス2018年4月号に掲載)

日経サイエンス2018年4月号

著者 :
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,440円 (税込み)

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