2018年12月10日(月)

大塚HD 特許の崖で重ねるヒット

2018/2/20 6:30
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大塚ホールディングス(HD)は年6500億円売り上げた抗精神病薬「エビリファイ」の特許切れから3年たち、安定した経営への道筋が見えてきた。小粒ではあるがいくつもの新薬がグローバルに浸透し始め、独自の機能性食品・飲料も貢献して2017年12月期は2期ぶりの増収増益となった。ただ、世界的に後発薬が急速に浸透し向かい風が強まっている。

大塚ホールディングスの樋口達夫社長は特許切れの克服を強調する(14日、東京都中央区)

大塚ホールディングスの樋口達夫社長は特許切れの克服を強調する(14日、東京都中央区)

大塚HDの中心である大塚製薬の特徴は第一三共アステラス製薬などに比べ精神疾患分野に注力していることだ。「統合失調症や双極性障害の改善効果が出ました」。現地法人の医療情報担当者(MR)が米ニューヨークの専門病院などで説明に奔走している。

MRが治験の成果を訴えて回っているのは主に、同社がグローバル3製品と呼ぶ新薬だ。錠剤と同じ成分だが注射剤にして飲み忘れを防ぐ抗精神病薬「エビリファイメンテナ」は、米国で13年に統合失調症の薬として承認され、17年7月に双極性障害I型で効能の追加承認を受けた。

同じく抗精神病薬「レキサルティ」は15年に米国で成人の大うつ病の補助療法と統合失調症で承認され、17年2月にカナダ、同年5月にオーストラリアでも認められ、世界市場に新薬が広がっている。

樋口達夫社長は自信を深め、14日の決算説明会で「収益の多様化を達成できた」と語った。発表した17年12月期の連結売上高は前の期比4%増の1兆2399億円、営業利益は3%増の1041億円と大きな伸びではなかったが、その中身が違う。グローバル3製品に国内新薬などを加えた「新製品群」は3424億円で、3年前の4倍にのぼる。

エビリファイは年間売上高がピークだった14年12月期に6542億円という数字をたたき出し、世界有数の薬になった。連結全体の4割を稼ぐほどで「世界で大塚といえばエビリファイと認識する人が増えた」とある製薬大手幹部は話す。野球に例えるなら特大ホームランだが、15年に米国で特許が切れて業績への貢献度合いは急降下し、売上高は10分の1近くまで減った。大塚HDは今、急激なパテントクリフ(特許の崖)に見舞われている最中なのだ。

エビリファイと同じような大当たりに簡単に出会えるとは大塚も考えていない。ホームランでなくヒットを重ねる。ひとつの成果として期待されるのが、米アバニアファーマシューティカルズ(カリフォルニア州)の新薬候補だ。

15年に約4000億円を投じて買収。手に入れた新薬候補ではアルツハイマー型認知症や統合失調症の治療薬が臨床試験の後期段階に入った。18年や新中計が始まる19年はそれらの登場時期となり、期待がかかる。

17年12月期にアバニアの片頭痛治療薬「オンゼトラ」の販売伸び悩みで減損を計上した。現在のところ収益への貢献は道半ばではあるが、ヒットの芽は仕込んである。

樋口社長が収益源の多様化を達成できたと語るのが言い過ぎとは言えないのは、機能性食品・飲料事業の営業利益が20%増の391億円となった点にもある。物流のコスト削減などで営業利益率は12%と、製薬(10.7%)を上回った。全体の営業利益の3割近くを稼ぐ。

大塚HDは、特許の崖をはい上がる手段が製薬だけだとは考えていなかった。17年、カナダ食品会社デイヤフーズを360億円で買収した。

「世界的な健康志向の高まりを取り込む戦略的な買収だ」と樋口社長。デイヤフーズは植物由来の原料からチーズやヨーグルトの代替品を製造している。タイのバンコクでは17年夏に設けた現地法人の営業員が、炎天下のなかセブンイレブンにポカリスエットの売り込みをかけた。

新薬を育て、食品・飲料分野が下支えしているが、現在の中計の最終年となる18年には逆風も吹く。樋口社長は「薬価改革や世界で進む後発医薬品の採用で外部環境は厳しくなる」と説明する。国内では4月に医療費を抑えるための薬価改革を控え、画期的な医薬品を後押しする新薬創出加算の算定が厳しくなる。

現中計を策定した頃には18年に6割とされた後発薬の普及目標は、18年から20年の早いうちに8割を目指すと目標が前倒しされている。同様の傾向は欧州でも見られ、製薬会社の競争はより厳しくなる。

17年には世界で初めて、錠剤にセンサーを組み込んだ「デジタル薬」が米国で承認された。エビリファイに一体化させたもので、飲むと胃からアプリに信号を出し、飲んだかどうかを医師が確かめられる。こうした独創的な製品の開発は、患者が大塚グループに期待するところでもある。

今年は樋口氏の社長就任から10年、大塚HDの上場から8年を迎える。この間の経営はエビリファイによる成長と、特許切れの影響の克服に費やされた。目の前の業績は改善したが、成長を目指すにはさらに種をまいていく必要がある。

21年には大塚グループの創業100周年を迎える。大塚製薬は15年に前社長の岩本太郎氏が急逝して以来、樋口氏が社長を兼務する状態が続く。100周年を万全の状態で迎えるためには、後継者選びも課題となる。樋口氏と大塚グループの双方にとって勝負の数年間と言える。

(企業報道部 安西明秀)

[日経産業新聞2018年2月20日付]

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