訪日客が日本でしたいこと 不動の1位「食」の魅力
インバウンドサイト発 日本発見旅

外国人観光客が日本でしたいこと、トップは何だと思いますか。観光庁の調査(注)によると、2014年からこの4年間ずっと同じなんです。「ショッピング」でも「自然・景勝地観光」でもありません。「訪日前に最も期待していたこと」は「日本食を食べること」が不動のトップ。日本食の魅力はそれほど大きいということのようです。
14年といえば、その前年の13年12月に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。米国が先行する格好で海外でもすしに始まる日本食ブームは続いていますが、ユネスコ無形文化遺産登録が「本場の食を日本で体験したい」という意欲を高めるきっかけになったのかもしれません。
(注)「訪日外国人消費動向調査」。全国18カ所の空港・海港から日本を出国する訪日外国人客を対象に四半期ごとに実施。
海外で急増する日本食レストランが人気を後押し
もう一つ、これも要因になっているのではと個人的に感じる現象があります。それは海外での日本食レストランの増加です。農林水産省が17年11月に発表した調査報告によると、海外の日本食レストランの数は過去10年あまりで約5倍に増え、前回調査(15年)と比べても3割増となっています。
夫・シャウエッカーの故郷、スイスのチューリヒもまさにこの状態で、毎年帰省するたびに日本食を目にする機会が増えています。私がチューリヒに行き始めた90年代後半は、日本食レストランはまだ数えるほどしかなく、そのほとんどが高級レストランでした。それが10年ほど前から、街の中心部にカジュアルな日本食レストランができ始め、デパート地下の食品売場にはすしカウンターも登場。帰省のたびにレストランの数が増え、ランチタイムはいつも満席。夫の友人たちによると、日本食の店に行くのが一種のトレンドになっているそうで、もうすっかり定着しています。
自国で日本食ファンになった人は、絶対に日本で本場の味を経験したいですよね。私たちがイタリアで本場のピザやパスタを食べるのを楽しみにするのと同じように。逆に、日本でおいしい食に出合った観光客たちが、自国に帰って日本食レストランに足を運ぶケースも増えていることでしょう。
日本食リピーターを引き付ける「旬」の存在
和食がユネスコ無形文化遺産に登録された際、挙げられた特徴の一つに「自然の美しさや季節の移ろいの表現」がありました。南北に長い日本の各地で味わう土地の名産と、旬の食材を使った季節感あふれる料理。そこに魅了される外国人は多いと聞きます。
夫のシャウエッカーもその一人。早春のこの時期、彼が大好きなものが野や山に姿を現します。それは「フキノトウ」。日本に来て最初の春、秋田の乳頭温泉郷を訪れたとき、まだ雪が残る地面のあちこちに、春の日差しのようにやわらかい浅緑色のフキノトウがたくさん生えているのを見て驚いたらしく「あれは何?」と聞かれました。
食べられる山菜だと教えてあげたところ、その日の旅館の夕食にフキノトウの天ぷらが出てきたのです。大喜びで味わう彼。そのほろ苦い味や独特の香りがいっぺんで好きになったようです。「『春は苦味』という言葉を、日本に来て初めて知りました。北国では雪が解けるとすぐ出てくる、その春を告げる雰囲気も好きですね」(シャウエッカー)。以来、春先に地方の取材があると無意識にフキノトウを探してしまうようです。旬ではない季節に行ったときはフキ味噌をお土産に買ってくるほど、あの苦味が気に入っています。

「スイスやカナダに住んでいたころは、四季はありましたが旬はあまり意識しませんでした。日本の旅館は食事に旬のもの、地のものを出してくれるのでうれしいですね。自分がいつ、どこへ行ったかを食べ物とともに記憶できます」。訪日観光のリピーターにとっても同じ。季節ごとに違うものが食べられるという点は、日本の食の評価を高くしている一つのポイントだと思います。
欧米では意外に珍しい食のスタイル「居酒屋」
最近の傾向では、食のメニューだけでなく、シチュエーション、食のスタイルにもこだわる訪日客が増えているように感じます。例えば、渓流の上に造られた桟敷で食事をする夏の川床(かわどこ)料理などに関心のある外国人は多いようです。冒頭の写真「福岡の屋台」が外国人観光客に大人気なのもその表れですね。
もっと多いのが「日本の居酒屋が大好き」という外国人。シャウエッカーによると、いろいろな食べ物を頼んでみんなでシェアするという居酒屋のシステムは、欧米の飲食店では意外に珍しいとのことです。確かに、居酒屋ならたくさんの種類の料理が食べられますし、刺し身、天ぷら、焼き鳥、豆腐料理など外国人が好きそうなメニューはだいたいあります。人気を反映して、今、海外でもIzakayaスタイルのお店が増えています。

外国人が居酒屋を好むもう一つの理由は、おとなしい日本人がまるで別人のように陽気になっているのが見られるから。スタッフのサムは以前、「ふつうジャパン」と「居酒屋ジャパン」という2つの日本人像があると話していましたが(「日本のビールが愛される理由 外国人記者に直撃」の記事参照)、そういう日本人の姿を見るととても親近感がわくようです。
日本の観光情報を世界に発信するジャパンガイドの外国人スタッフたちは、例外なく日本食が大好きです。今年の1月、パートナー企業との合同新年会の会場は東京・築地場内にある居酒屋でした。参加者の国籍は7カ国。次から次へと各地の日本酒をオーダーし、驚くような食べっぷり飲みっぷりで築地の居酒屋さんにふつうになじんでしまったひとときでした。
せっかく日本食好きなスタッフに囲まれているので、個別に好みを聞いてみました。
シャウエッカーは、フキノトウ以外では刺し身と焼き鳥。種類や部位の多様さ、見た目の美しさにもひかれるとか。欧米では鶏肉は絶対に生で食べないので、鳥刺しには驚いたそうです。
毎日ジョギングを欠かさないサム(英国)は健康志向で、すし、しゃぶしゃぶ、そばがトップ3。
アンドリュー(米国)は刺し身とそば、博多ラーメンを挙げました。「福岡の屋台で食べて、とても楽しい思い出があるから」とか。

ジャパンガイドのグルメ担当、レイナ(シンガポール)の場合、好きな日本食があり過ぎて悩んだ結果、次の3つに絞りました。
1.京都のカフェのたまごサンド(たまごサンドは今や日本食と言ってもいいでしょう):レイナは「今、たまごサンドがマイブーム!」なのだそうです。東京はゆで卵をマヨネーズであえる具が主流ですが、京都はふわふわの卵焼きやだし巻き卵をサンドするのが特徴です。
2.金沢のスイーツ:「金沢はおいしいスイーツがたくさんあります。特に中田屋のきんつばが好き! にし茶屋街のスイーツ屋さん巡りも楽しい」
3.白いご飯:「やっぱりご飯! お米には特にこだわらないけど、白いご飯がいちばん好き」
実はレイナのようにアジア出身でなくても、ご飯好きな外国人は多いのです。現在は故郷の米国で暮らしている元スタッフのスコットは、「非常食」と言ってオフィスの机の引き出しにレトルトの白いご飯を常備していました。スイスから初めて日本に来たシャウエッカーの友人はコンビニのおにぎりがすっかり気に入って、旅の途中で小腹がすくと、よく買っては器用にのりを巻いてうれしそうに頬張っていました。シャウエッカー自身も、外食時には「このご飯はおいしい」「ここはご飯が残念」と評価するほど、今ではご飯の味にこだわっています。もしかしたら「白いご飯」は、外国人が好きな究極の日本食かもしれません。

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