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平昌五輪で5G大活躍 視聴者がディレクターに

韓国・平昌五輪では日本人選手の活躍が世界でも話題だが、もう一つ注目されているのが次世代通信規格「第5世代(5G)」を使ったスポーツ中継の大規模な実証実験だ。韓国の通信大手KTとサムスン電子などが世界に先駆けて始めた。超高速・大容量通信の5Gは多くの産業に影響を与えるだけに主導権を握るための戦いがヒートアップしそうだ。

「こんな映像、見たことがない。映画のマトリックスみたいだ」――。フィギュアスケートなどが行われる「江陵アイスアリーナ」を訪れた観客は会場の一角に置かれた5G対応の専用タブレット端末を操りながらこう驚きの声を上げた。

米国の映画マトリックスは1999年に公開され大ヒットした。俳優が弾丸をよけるシーンでカメラアングルがぐるりと360度動く「パレットタイム」と呼ばれる特殊撮影技術で世界をあっと言わせた。そんな驚きをスポーツ中継に持ち込んだのが平昌五輪での実証実験だった。

分かりやすいのが江陵アイスアリーナでのショートトラック競技だ。1周110メートル程度のリンクを複数の選手が同時に滑り、順位がめまぐるしく変わる。通常の放送ではテレビ局が選んだ映像だけだが、5G対応タブレットは違う。画面をクリックすれば、見たい選手の動きなどをあらゆる角度から見られる。

「冬季五輪の華」であるフィギュアも同じだ。男女ペアの競技では女性選手がジャンプするようなハイライトの瞬間の映像を様々な視点でタブレットに表示できる。これは放送の世界の常識を覆すといえる。テレビ局の放送を一方的に見るのではなく、視聴者がテレビ局のディレクターになった気分で好きな場面を取り出せるからだ。

実証試験を手掛けるKTの担当者は「アリーナ内の周囲には100台のカメラが設置されていて、様々な角度から映像を撮影している」と語る。米インテルの技術を活用して選手の映像データを合成処理してサーバーに置いている。4Gと比べて実効速度で約100倍、最大毎秒20ギガビットという超高速・大容量通信の5Gだから、視聴者は好きな時に好きな場面を自由に見ることができる。

平昌五輪の会場の一角では来場者がタブレットで5G中継を楽しめた

 「2019年に世界でいち早く5Gを商用化する」――。KTの黄昌圭最高経営責任者(CEO)がこう宣言してから1年。平昌五輪は5G技術の高さを示す格好の舞台になった。五輪会場の主要3都市や、ソウル特別市の一部で5G通信網を整え、会場の一角のブースに用意した専用タブレットや大画面ディスプレーで5Gを使った映像を見られる。五輪に間に合わせるため、KTは標準規格が固まるのを待たずに独自の5G仕様を開発した。

5Gのインフラ構築の中枢を担うサムスン電子の申東洙常務は「5Gでは様々な技術的な課題があったが、今回の五輪では克服できたことを示せた」と胸を張る。5G対応のタブレットも数百台規模で提供している。

平昌五輪で披露された5Gの新技術では、クロスカントリー競技の生中継も現地で大きな驚きを与えていた。

5Gの実証実験を主導した韓国KTのパビリオン

「レースで遅れた選手がタブレットでどこにいるのか分かる。映像も簡単に切り替えられて便利だ」――。競技が行われる平昌のアルペンシアクロスカントリーセンターから20キロメートル離れた江陵の五輪会場で5Gタブレットを手にした来場者はこんな感想を漏らした。

クロスカントリーは10キロメートルを超えるコースを多くの選手が周回する。11日に開かれた競技では各選手が全地球測位システム(GPS)の発信器をつけていた。コースには合計10台を超えるカメラが設置されており、離れた会場などにある5Gのタブレット端末にも映像が送られる。

タブレットの画面上ではコースの全体地図が表示され、GPSで選手の国籍を示す旗も動く。「日の丸」の近くのカメラアイコンをクリックすると、日本人選手の映像が見られる。通常の放送で中継されるのは先頭集団ぐらいだ。多くの地点の中から視聴者が映像を選ぶことができる。5G技術が普及すれば、スポーツなどの映像中継の魅力が高まることになる。

大迫力の映像を見せたのがボブスレー競技の中継だろう。将来的に5Gが自動運転の実用化にもつながる中核技術であることを証明した。

ボブスレーは最高時速が140キロメートルを超えるスピードになるために「氷上のF1(フォーミュラ・ワン)」と呼ばれる。今回の五輪ではボブスレーの前面に小型カメラを搭載し、5Gを使って映像をリアルタイムでタブレット端末に伝送している。視聴者はまるでボブスレーに自分が乗っているかのように臨場感の高い映像を、手元の端末で見られる。

通信の遅れがほとんど起きない「低遅延性」が5Gの特徴の一つだ。それが自動運転での安全性を担保する基盤技術となる。それだけに高速で疾走するボブスレーの中継は5G技術の高さを改めて示した。

「世界初の5Gオリンピックだ。一般の来場者が手にとって体験できるのも初めてだろう」とKTの担当者は強調する。平昌五輪は商用サービスに近い環境で5Gの実力を体感できる機会となった。サムスン電子が用意した5Gに対応したタブレット端末にしても世界初といえる。これまで世界各地で映像中継の実験が行われてきたが、小型冷蔵庫のように大きな端末が使われていた。

平昌五輪には世界の業界関係者が足を運び、KTやサムスン電子などによる実証実験を視察した。日本の通信大手幹部は「KTやサムスンはアピールの仕方が巧みだ。日本としても負けてはいられない」と語る。平昌五輪を契機に5Gの実用化に向けた戦いが一段と激しくなりそうだ。

(企業報道部 堀越功)

[2018年2月19日付 日経産業新聞]

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