トップ対談 強い組織やリーダーの育て方とは - 日本経済新聞
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トップ対談 強い組織やリーダーの育て方とは

S・ハンセン氏vs玉塚元一氏

 強い組織に必要なものは、リーダーを育てるための方策とは――。ラグビー・ニュージーランド(NZ)代表監督のスティーブ・ハンセン氏と、慶大ラグビー部出身の企業経営者である玉塚元一氏が、2月3日に日本経済新聞社で対談した。

ハンセン氏率いる「オールブラックス」は2015年ワールドカップ(W杯)で2連覇を達成した。玉塚氏もけがを負っていながら松葉づえを抱いて渡英し、その決勝を観戦するほど楕円球を愛している。2人の対話はラグビーとビジネスの間を行き来しつつ、あちこちへはずんだ。

――オールブラックスの強さの理由は何か。

ハンセン 一因は自分たちのアイデンティティーを理解していることだ。15年、チームのリーダー陣にアイデンティティーを聞いても答えられなかった。そこで選手に尋ねた。感銘を受けた人は誰か、その人の特長は何か、と。共通する項目をまね、越えようとした。こうした取り組みをグラウンドの内外でやってきた。また、高みを目指せばおのずと高い結果が得られる。チームに求める基準をどんどん上げている。

玉塚 今の話に強い組織をつくるエッセンスがある。経営の立場でどうやって強い組織をつくるのか日々悪戦苦闘しているが、組織が何のために存在し、何をなし遂げるのかというミッションが大事。目線を上げることも経営で絶対に必要だ。

これくらいの人口でなぜ才能あふれる選手が生まれるのかと考えた時、コーチングの存在があるのではないか。どう選手を育て、チームを強くするのかという情報を共有する技術や、オールブラックスは人格者としてみんなが憧れる存在であるべきだというのが強さの本質じゃないかと思う。

ハンセン 人口450万人というのは弱みでも強みでもある。各自が多くを知らないといけないからだ。子供も色々な競技をやり、色々なスキルを学ぶ。選手育成のためには情報を隠すことは良くない。さまざまな立場のコーチがアイデアを共有し指導法を議論する。あるチームが勝つとその考えを取り入れる。農家で飼料を運ぶ人手が足りなければ近所の人が助けるのと同様に、小国だからラグビーでも助け合う。

玉塚 日本だと各学校や監督、コーチにこだわりがある。慶応のなかでも大学と高校、中学で色々な考え方がある。NZでなぜそれができるのか。僕の理解では、みんなが1人でも多くの素晴らしい選手やオールブラックスをつくろうと目線を1つにしていることが理由だろう。もう1つはアティチュード(態度)の問題。NZの人とよく話すけれどとても謙虚で優しい。アティチュードや学ぶ姿勢がとても大事だと思う。

経営でも組織はどうしてもたこつぼ化し、縦割りになる。コンビニエンスストアだったら良くやっている店に学び、タイムリーにシェアする仕組みがあるといい。「壁を造るな。ワンチームだ」というのをやり続けるのが経営。NZのラグビー界全体でそれをつくりあげてきたのはすごい。

――常勝を求められる重圧にはどう対処する。

ハンセン まずプレッシャーがあると認識し、何が原因か考える。私の場合、予期しないことが起きた時に重圧を感じる。その時どう対処するか準備しておく。脅威が起きた時の脳の状態をレッドヘッドと呼ぶ。攻撃的な気持ちになり、凍り付き、逃げたくなる。その逆がブルーヘッド。何も考えずに行動できている状態だ。だから常にプレッシャーに備え、引き出しから対処法を取り出す。

玉塚 日本には心技体という言葉がある。人が成長するには技術もフィットネスも大事だが、出発点は強い心だと思う。特にラグビーは勇敢じゃなきゃダメだし、きついトレーニングがたくさんある。オールブラックスを目指す若い世代のメンタルを強くするため意識していることはあるか。

ハンセン 才能ある人は努力の仕方が分からない時がある。苦労の少ない人も簡単に崩れやすい。彼らのせいではなくやり方を教えなかった方が悪いのだ。若手には難しい課題を与え、自ら成長する方法を理解させる。

――19年W杯で3連覇するためのカギは。

ハンセン 誰もやったことがないと考えると後ろ向きになるが、やってみようと考えれば、より高みを目指す気持ちになる。2つは大きく違う。

――今回の来日では試合会場などを視察した。

ハンセン 海外の大会を大変と考えるのか、その国を楽しむのか。準備はいろいろできる。日本語を学ぶこともひとつだ。簡単な言葉を学べばタクシーを呼んだりできる。W杯ではプレーだけでなく、日本の文化を学び、いい時間を過ごしたい。また、(試合会場までの)移動時間をなるべく短くしたい。大使館や(スポンサーの)AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)の助けも借りてやっていきたい。

玉塚 キャプテンシーについても聞きたい。

ハンセン オールブラックスになった選手に最初の日に聞く。君はどういうリーダーシップを取れるのかと。自分自身をリードできないと周囲を助けることはできないからだ。私は誰もが主将になってほしい。(W杯メンバーの)31人全員が主将になれるなら、本当にいいチームになる。

(司会は谷口誠)

 Steve Hansen 現役時代はCTBとしてカンタベリー州代表でプレー。引退後は警察官を経て指導者へ。ウェールズ代表監督として2003年W杯に出場。04年オールブラックスのコーチに就任。11年のW杯優勝後に監督を引き継ぎ、15年W杯で連覇。58歳。
 たまつか・げんいち 慶大ラグビー部で1984年度に大学選手権準優勝。ファーストリテイリング社長やローソンの社長、会長を歴任した後、2017年にソフト検査会社のハーツユナイテッドグループ代表取締役社長CEOに就任。55歳。現役時代はフランカー。
 「ラグビー王国」と言われるNZだが、近年はさらに王座の地位を盤石にしている。オールブラックスの成績のみならずスーパーラグビー(SR)でも他国のクラブを圧倒。次々誕生するスター選手に加え、指導者を大量に"輸出"するコーチ大国でもある。

NZ、世界を席巻 W杯や連勝記録

2011年のハンセン監督就任後、オールブラックスはラグビー界の新記録を2つつくった。1つは15年のW杯連覇。そして、16年10月には強豪国として初めてテストマッチ18連勝を達成した。

W杯後、100キャップ程度を持つ大ベテラン6人が抜けても勝率はほとんど変わっていない。SRでもNZ勢は3連覇中。とりわけ昨季はNZのクラブが海外勢と対戦したカードは42勝3敗と圧倒した。

2年連続世界最優秀選手のSOボーデン・バレットら新星を輩出し続けているのに加え、資金力のある欧州のプロクラブチームに対抗して多くの有力選手を国内につなぎ留めているのが大きい。

原則的にNZ国内のクラブに籍を置く選手しか代表に選ばないルールを維持しつつ、商業面では新手を打っている。12年にはオールブラックスのジャージーの胸に初めて企業名の表示を許可。AIGと組むなど、各企業からの資金で代表やSRの選手への報酬を積み増す財政的な土台を作りあげた。

選手とは逆に、指導者は積極的に海外へ送り込む。今季のSRではNZの5クラブに加え、海外の3クラブの監督もNZの指導者が務める。代表チームでも、19年W杯への出場を決めている16カ国の監督のうち最多6人をNZ人が占める。各国に張り巡らせた人脈も王国の強みになっている。

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