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羽生、不屈の王者 全身全霊 世界酔わす

大技を封印 勝負に徹す

演技を終えると羽生は指で「1」を作り、氷を何度もなでた。後ろにフェルナンデスと宇野が残っていたが、「自分が勝った」と確信できた。

SPから1日。演技時間が2分近く長くなるフリーを前に、羽生は決断を迫られていた。「そんなによくない」右足首の状態と、勝つために最適な演技構成のどこで折り合いをつけるか。当日朝、一人で決断した。4回転は右足で踏み切る大技のループを封印し、サルコーとトーループで勝負する――。

ジャンプ構成は4回転のサルコーとトーループを2本ずつ。ルールで3種類以上のジャンプを2度跳ぶことはできない。SPで全審判から満点3の加点を与えられた得意のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を2回入れる選択肢もあったが1回にした。頭にあったのは、SP3位で追ってくる宇野の構成だ。

4回転ジャンプを3種類で計4本、トリプルアクセル2本を入れる。基礎点の合計は羽生より10点以上高い。自分がミスを犯し、宇野に完璧な演技をされたら危うい。かといって、4回転のループやルッツはリスクが大きすぎる。「『跳びたい』ではなく、何よりも『勝ちたい』と思った。この試合は勝たないと意味がないと思っていた。今回は、本当に大事に結果を取りにいった」

やるべきことが決まれば、あとは迷いなく演じるだけだった。朝の公式練習でも6分練習でも成功率の低かった冒頭の4回転サルコー。「いろんなことを分析して、自分の感覚とマッチさせられるのが自分の強み。だから爆発力が出る」。丁寧に決めて3点の加点を引き出すと、続く4回転トーループも3点もらう美しい着氷。自信がにじみ出るジャンプだった。

色々考えながら演技しているからだろう、陰陽師らしいミステリアスな雰囲気はこれまでで一番出ていた。プログラムが進むにつれ、「気」が会場に満ちていく。

頂点への渇望がどれほどか試された後半。4回転トーループの着氷が詰まったあたりから、本来の美しい着氷が乱れ始める。最後のジャンプは負傷した右足をついて跳ぶ3回転ルッツ。「右足が頑張ってくれた」。転倒しそうになりながらこらえ、最後のコレオシークエンスも乗り切った。

自己最高得点から17点も低い。現状に安住せず、常に新しい技に挑んできた王者からすれば、勝負に徹する戦いはポリシーに反するかもしれない。ただ、そうまでして勝ちたい五輪だった。

この日だけを夢見てきたソチからの4年。「短かったといえば短かった」。毎年のようにケガや病気に見舞われ、最後に一番大きな試練が待っていた。「(ケガの多さは)それだけ、フィギュアスケートに勇気を持って恐れず接してきたからこそです」。羽生らしいきっぱりとした言葉に、成し遂げた偉業への誇りがにじんだ。(原真子)

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