日産に迫る仏政府の影 ゴーン氏、ルノーCEO続投
仏ルノーは15日、カルロス・ゴーン氏が最高経営責任者(CEO)を続投すると発表した。一時はCEO退任観測まで浮上した人事交渉の過程ではルノーの筆頭株主である仏政府の影響力が浮かび上がった。自国経済への配慮を求める仏政府が発言力を増せば、日産自動車や三菱自動車の経営の独立性に影響する恐れもある。これまでと異なる経営環境で3社連合は再スタートを切る。
ゴーン氏は翌16日にパリで開いた記者会見で「(アライアンスは)持続可能かという疑問に答えていきたい。ルノー、日産、三菱に加え日仏政府の支持が必要だ」と話した。現在と同じ枠組みでない経営体制に移行する可能性があることを示唆したと受け止められた。
4年の任期は多難だ。ルノーの筆頭株主である仏政府も人事案に同意する条件として3社連合の「深化」を求める。ゴーン氏は仏AFP通信の取材に「全ての選択肢がありタブーは無い」と3社連合の持ち株比率を変える可能性にも言及した。
日産を影響下に置きたい仏政府の求めを当面はいなしながら、ルノーでは2022年までに売上高を16年比約4割増の700億ユーロ(9兆3千億円)にする目標を掲げる。3社連合では22年までに12車種の電気自動車(EV)を発売する。
ゴーン氏は仏政府と対立しているはずだった。仏大統領選の最中だった1年前は「仏政府がルノーの株主にとどまり続ける限り、日産はいかなる資本構成の移動も受け入れない」と主張。仏政府の出資の引き揚げまで促していた。

両者の対立は15年に先鋭化した。仏政府は株式を長期保有する株主の議決権を2倍にできる「フロランジュ法」を盾に自らが強い影響力を持つ形でルノーと日産の経営の一体化を求めた。仏国内雇用への配慮などを求められるリスクをかぎ取った日産側は、ゴーン氏とともに猛反発していた。
仏政府は今回、今年6月のルノー株主総会での取締役の改選にあたり、経営陣の若返りを求めていたとされる。ゴーン氏は仏政府からCEO続投へのゴーサインを引き出すために、3社連合の経営方針などをめぐって大幅な譲歩を迫られたフシがある。それゆえ今後の課題として「アライアンスの持続」に言及したとみられている。
ゴーン氏は今回、ルノーCEO続投の人事案の決定に当たり、報酬の3割減額にも応じたという。16年時点で約700万ユーロに上る高額報酬には仏国民の間でも批判が高まっていた。後継者候補として最高執行責任者(COO)にティエリー・ボロレ氏を指名済みで、会見では「ボロレ氏が経営全体に関わり、私の関与度が下がる」と述べた。 1999年に資本提携したルノーと日産は14年に研究開発や購買など主要4部門の機能を統合するなど、あたかも1つの会社であるかのような状態にまで関係を深めてきた。どちらか一方が資本の論理で支配するのではなく、独立した企業が経営資源を補い合う「緩やかな連携」を、ゴーン氏が両社のトップを務めることで実現してきた。
プラットホーム(車台)の共通化によるコスト削減や1000万台に達した世界販売などゴーン氏がいたからこそルノーと日産は飛躍できた面が大きい。新たな任期となる4年間もカーシェアリングの普及や自動運転技術の進化に伴い、ものづくりから顧客基盤の利活用へと競争軸が移る中で新たな戦略を練り直す。
ただルノーと日産の関係はこれまでと同じとは限らない。くすぶるルノーとの経営統合の可能性について日産の西川広人社長は「メリットが見えない」と否定的だ。一方、ゴーン氏は今年1月の仏国民議会(下院)の公聴会でも3社連合のガバナンス(企業統治)に関し「現在の(3社で会長を兼ねる)体制は、統合強化のためにやむを得ず選択している」と述べている。現状の3社体制の問題点をたびたび口にしている。
今回の人事を通じてゴーン氏の背後に仏政府の意向があると多くの関係者は感じ取った。3社連合は未完成のガバナンスと、新たな競争軸への対応という両面の課題を抱えた。(白石武志、パリ=白石透冴)